プール授業のお話④(小学四年生)

 プール授業一回目というのもあり、残り時間は自由時間となった。

 仲良しグループで水をかけ合ったり、泳ぎで競争をしていたり、水中でにらめっこをしている子達なんかもいた。


「ほら葵がんばって。もっと足を大きく動かすのよ」

「つ、疲れたよぉ~」


 俺は葵ちゃんの泳ぎの練習に付き合っていた。むしろ瞳子ちゃんの方がやる気だ。指導に熱が入っていらっしゃる。

 葵ちゃんはビート板を持ってバタ足で泳いでいた。本当に泳いでいると言っていいのかと言い淀んでしまうくらいなかなか前に進んでいないんだけれども。

 放っていたらすぐに沈んでしまうので瞳子ちゃんが葵ちゃんの体を支えている。バタ足に集中するだけでいいのだが、葵ちゃんの足はどんどん沈んでしまっていた。

 葵ちゃんの運動のできなさは昔からだからなぁ。ちょっとやそっとではどうにもならない気がする。


「葵ちゃんの練習はそのくらいにして遊ぼうよ。せっかくの自由時間なんだからさ」

「トシくんに賛成! 瞳子ちゃんもいいよね?」

「もうっ、俊成は葵に甘いんだから」


 そう言いつつもスパルタになりきれない瞳子ちゃんなのであった。彼女もけっこう甘いとは思うんだけど、怒りそうだから口にはしないようにしておこう。


「どわっ!? あぶっ」


 いきなり足をすくわれて水中へと沈んでしまった。何事!?


「ぶはっ! な、なんだ?」


 慌てて顔を出して呼吸をする。急に水の中に入って呼吸ができなくなると酸素が恋しくてたまらない。


「なんだじゃない。あたしだ」

「僕もおるで」


 バシャーン! と水音を立てて登場したのは赤城さんと佐藤だった。どうやら二人が俺の足をすくって転ばせたらしい。

 このコンビでいたずらを仕掛けてくるとは珍しい。プールとはそれほどにテンションを上げてくれるものなのだろう。まあ赤城さんはけっこういたずら好きなとこあるけどさ。


「トシくんのカタキだよ!」

「よくもやったわね!」


 葵ちゃんと瞳子ちゃんが赤城さんと佐藤に向かって水かけ攻撃をする。二人とも俺のために怒ってくれているのか……。なんてじーんとしていると、二人の顔が笑顔でいっぱいになっているのに気付いた。どうやら心配されていたわけじゃないらしい。


「佐藤、反撃」

「任せてや!」


 赤城さんと佐藤も水かけ攻撃で反撃をする。こうしてきゃっきゃっうふふと水のかけ合いが始まったのであった。

 俺? 間に挟まれて集中砲火されていたよ……。


「見てろ。こうすれば浮くんだぜ。うおおっ!」


 本郷は二枚のビート板に乗ろうとして派手にすっ転んでいた。浮くっていうか、ビート板は宙に舞いましたね。

 こうして見ると本郷ってけっこうバカっぽいな。もっとクールな奴かと思っていたんだが……。まあ精神年齢の差かもしれないけども。


「そろそろ時間だ! みんなプールから上がれー!」


 遊んでいるとあっという間に時間がきてしまった。先生の言うことを聞いてみんな素直にプールから上がっていく。


「学校のシャワーってなんでこんなにも冷たいのかしらね……」


 プールに入る前もそうだったのだが、出る時にもシャワーを浴びなければならない。瞳子ちゃんの言うようにけっこう冷たいのだ。一部の生徒からは地獄のシャワーと呼ばれている。

 そんなシャワーを堪能している奴もいるようで、まるで修行みたいに滝にでも打たれているかのようなポーズをとっている男子がいた。こういうことするのって男子ばっかだよな。


「タオルあったかーい」


 バスタオルに身を包んだ葵ちゃんは幸せそうだ。なんかプールの後のバスタオルって気持ちいいよね。

 こうしてプール授業は過ぎていくのであった。スイミングスクールで泳ぐのとは別の楽しさがあっていいよな。これからも楽しみだ。


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