杉子
ああ、来てくれたのか。疲れてるのに悪いな。
今日はだし茶漬けか。うん、さっぱりしていていいな。
季節のものも色々あるけど……あぁ、鯛なんて美味そうだ。それにするか?
俺は……炙り明太子にしよう。
……そう、それでだな。好きな子ができたんだ。
ため息つくなよ。今度こそ運命だと思ったんだ。
その人はな、杉子さんっていうんだ。
あんなに無垢で美しくって清い……思いやりのある、愛らしい女性は初めてだ。
作品は杉子さんに恋する野島という青年がメインで語られるんだ。まあコイツは駆け出しの脚本家だしやせぎすだからそこまで強敵じゃないんだが……
問題は杉子さんが思いを寄せる大宮という野島の友人だ。性格も見た目も良いという完璧男な上に、彼も彼でこっそり杉子さんに好意を抱いている。けれど親友である野島に遠慮して想いを伝えることができない……
物語の主題は大宮が野島との友情と杉子さんへの愛、どちらを選ぶかというシンプルかつ奥深いものなんだ。
この三角関係の中心である杉子さんは正直野島なんて相手にしてない。
「野島さまは私というものをそっちのけにして勝手に私を人間離れしたものに築きあげて、そして勝手にそれを賛美していらっしゃるのです」というセリフがそれを物語っているな。そもそも自分への恋心がお門違いだって言っているんだ。
何というか、自分がどう見られているのかよく分かっている……杉子さんは聡い女性だなと思うよ。そういう利発なところが俺にはひどく眩しいんだ。
そんな杉子さんはただただ大宮に切実に思いを寄せるが、大宮は野島との友情を重んじるあまり杉子さんの想いを受け入れない。杉子さん、そんな男やめて俺にしてくれればいいのにな……
それでも杉子さんは彼への熱い愛の告白をやめない。
「私もあなたに逢い、あなたと話し、貴方と一緒に遊んだり笑ったりするまではこの世にはこんな喜びがあり、人間がこんなにまで喜べるものかということを知りませんでした」
杉子さんの一途な恋の情熱もまた、作品の中で燦然と輝いている。もちろん作品としての完成度も高いが、何より彼女の可愛らしさがピカイチなんだ。
他にも杉子さんは恋のお相手である大宮に対してこんなことを言っている。
「あなたが外国のかたと外国語で話して、愉快そうにしていらっしゃるのを見ると、私もわかった気になって一緒にトンチンカンなところで笑いますわ」
杉子さんからすれば、大宮が笑っているだけで宙に浮かぶような気持ちなんだろうな。そんな素直なところも可愛くって仕方ないよ。俺もこんな風に一緒にいるだけで笑ってほしい……可愛い……好きだ……杉子さん……
ああ、結局どうなるか?
結局は大宮も自身の心に素直になって杉子さんを受け入れて、二人は恋人同士になる。つまり大宮は野島との友情より杉子さんとの愛を選んだわけだ。
……なんで俺は他の人の恋人ばかり好きになるのかって?
仕方ないだろ。好きになったものは仕方ないし、そもそも恋は女性を輝かせるものの一つだから物語のテーマになりやすい。
恋をしている彼女たちの輝きを俺は好きになってしまうんだよ。
ああ、でも俺は諦めないぞ。野島のように深く粘り強く杉子さんへ思いを伝えて見せる。第二の野島として杉子さんを愛し続けるんだ。
……「私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります」ってセリフがある、だって?
……辛い現実を突きつけるなよ。どうせ俺は野島どまりだ。どうせ杉子さんに選ばれるような器じゃないんだ。
……はぁ…………また失恋か。
俺もしばらくは友情に生きるしかないみたいだ……
なぁ、俺の理想の恋人はどこにいるんだろうな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます