入学式①

「────これより、入学式を行います。まずは新入生の入場です。温かい拍手でお迎え下さい」


 アイザック様が第二ホールに入ってから間もなくして、司会者の声が耳を掠めた。

『いよいよ、本番だ』と誰もが気を引き締める中、観音開きの大きな扉が開け放たれる。

私は列の最後尾に居るため、中の様子が見えないが、生徒の保護者で溢れ返っているのは何となく予想が出来た。

耳が割れんばかりの盛大な拍手が巻き起こり、二列に並んだ新入生たちがゆっくりと歩き出す。

新入生が次々と会場内に足を踏み入れる中、私はチラッと横に目を向けた。


 列の並びは来た順だから、何となく分かっていたけど……私の隣はやっぱり、あの美形なのね。

ロマンス小説の主人公のように『やだっ!ドキドキが止まらない……!』なんてことはないけど、周りの視線が痛い……。


 黒髪の美青年はその美しさ故に嫌でも注目を集めるため、自然と隣を歩く私にも注目が集まる。

当の本人は慣れているのか、全く気にしていないけど……。


 『やっぱり、もっと早く来れば良かった……』と後悔しながら、私は会場内をグルッと一周した。

新入生用に設けられた椅子の前に並び、先生の合図で一斉に席に着く。

すると、会場に響き渡っていた拍手がピタッと止まった。


「盛大な拍手、ありがとうございました。続いて、生徒会会長の挨拶になります。会長のレオナルド・アレス・ドラコニア皇太子殿下、よろしくお願いします」


 『皇太子殿下』というパワーワードと共に立ち上がったのは金髪の美青年だった。

艶やかな金髪と中性的な顔立ちが印象的な彼はエメラルドの瞳に我々新入生を映し出す。

女子生徒達がポッと頬を赤く染める中、彼はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。

数名の女子生徒が声にならない声を上げ、バタッと倒れる。


 人たらしの化身と言っても過言ではないこの方こそ────フリューゲル学園の現生徒会長であり、ドラコニア帝国の皇太子でもある、レオナルド・アレス・ドラコニア殿下だった。


 外見の良さも去ることながら、文武両道の才能を持ち合わせている天才だと、専らの噂だ。

おまけに人当たりも良く、相手が平民でも分け隔てなく接している。もちろん、執行者という立場にあるため、時には厳しく接する必要もあるが、基本的に穏やかな人だ……と聞いている。主に姉のスカーレットから。


 嫌ってほど聞かされた内容を思い返す中、レオナルド殿下は保護者席の方に軽く頭を下げてから、ステージへと足を向けた。

その後ろに他の生徒会役員が続き、ゾロゾロとステージへ上がっていく。

その中には────私の姉である、スカーレット・ローザ・メイヤーズ子爵令嬢の姿もあった。


 何故、姉がそこに居るのか……その答えは至極簡単で────彼女が生徒会の現副会長だからだ。

女性……それも子爵令嬢が生徒会に入るなんて前代未聞だが、姉はその優秀さを認められ、副会長に抜擢された。


 妹に対する言動はさておき、姉はかなりの成績優秀者だ。魔法学では、あのレオナルド殿下すらも凌ぐと言われている。

そのせいか、彼女の大抜擢に否を唱える者はほとんど居なかった。


 誇らしげな表情を浮かべ、レオナルド殿下の後ろに控える姉は八年前より明らかに大人っぽくなっている。

だが、低身長と童顔のせいか『綺麗』よりも『可愛らしい』という言葉が似合う。

それでも、姉は一生懸命メイクで大人っぽく見せているみたいだが……。

決してブサイクという訳じゃないのだが、姉は子供っぽい容姿にコンプレックスを感じているようだ。

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