八年後②
「制服、よくお似合いです。シャーロット様もついにフリューゲル学園に入学する日がやって来ましたね」
侍女の一人が感極まった様子でそう言うと、他の侍女達も『寂しくなりますね』『時の流れとは早いものです』と呟く。
別れを惜しむような彼女達の反応に、私はクスクスと笑みを漏らした。
フリューゲル学園とは、ここ────ドラコニア帝国の最高峰と呼ばれる学び舎だ。
皇家が全面的に支援している教育機関で、規模が大きい。そのため、貴族達がこぞって入学を希望する。
何か深い事情でもない限り、貴族の大半がここへ入学していた。
例に漏れず、私もフリューゲル学園の入学が決まり、入学式当日を迎えている訳だ。
学園は基本的に全寮制のため、余程の理由がない限り、寮へ入る。でも、休日の帰省や外泊は認められているため、全く会えない訳じゃなかった。
「休みの日はなるべく会いに来るから、そんなに落ち込まないでちょうだい。ねっ?」
僅かに目を潤ませる侍女達に笑いかけ、宥めようとするが……彼女達はブンブンと首を横になった。
「いいえ!そんなの絶対に嘘です!面倒臭がり屋のシャーロット様が頻繁に帰ってくるとは思えません!」
「そうですよ!この前だって、『面倒臭い』って言ってお出掛けの予定を急にキャンセルしたじゃないですか!馬車も護衛も用意して、準備万端だったのに!」
「シャーロット様のお言葉は信用出来ません!長期休暇に入るまで帰って来ないのはお見通しです!」
侍女軍団に怒涛の勢いで反論され、私は冷や汗を掻きながら視線を逸らした。
返す言葉が見当たらず、『あ━━━━』とか『う━━━━』とかよく分からない言葉を発する。
全く反論出来ない……『まあ、来週会いに行けばいっか』とか言って、帰省を後回しにする未来の自分が見えるから。
家族や使用人に会いに行くのは別に面倒じゃないんだけど、そこまでの道のりを考えると、どうもね……長時間馬車に揺られてお尻を痛めるより、部屋のベッドでゴロゴロしていた方がいいんじゃないかって結論に至ってしまう。
小さい頃から変わらない面倒臭がり屋な性格に思いを馳せていれば、侍女達が『はぁ……』と溜め息を零した。
そして、『仕方ありませんね』とでも言うように苦笑を浮かべる。
「別に無理に帰って来なくても構いませんよ。シャーロット様の性格はよ~く分かっていますから」
「私達はただシャーロット様が元気で居てくれるだけで十分です。それ以上に望むことはありません」
「あっ!でも、いいお婿さんは見つけてきて下さいね!結婚相手探しで失敗したら、痛い目に遭いますから!」
「玉の輿を期待しています!」
グッと両手を握る彼女達は『頑張って下さいね』とエールを送ってくれた。
なんだかんだ、私に甘い侍女達に笑みを漏らしつつ、『ええ、分かったわ』と返事する。
そして、彼女達に連れられるままドレッサーの前に座った。
大きな鏡に制服を着た自分の姿が映し出される。
透明感のあるラベンダー色の長髪に、姉と同じタンザナイトの瞳。肌は雪のように白く、ピンク色の唇が際立って見えた。
「今日は待ちに待った入学式ですし、張り切ってメイクしますね!」
侍女の一人がそう言うと、周りの子達が『私達に任せて下さい!』と胸を張る。
気合い十分の彼女達に苦笑を漏らしながら、私は『よろしくね』と言って、頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます