世界存続滅亡マップ
高山小石
それは幸せへの道しるべ
朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。
「あぁ、残り七日なんだ」
「ついにここまできたのか」
テレビを見ながら食卓を囲む僕たち家族の会話は冷めている。
とてもあと一週間で世界が終わるとは思えない落ち着きだけれども、仕方がない。
なにせこれはカミサマと人間との約束事だ。
僕ら家族だけじゃなくて、全世界で似たような諦観の光景が繰り広げられていることだろう。
はるか昔、カミサマは僕らの元に降りてきて言ったそうだ。
『導こうとしたが何度やっても失敗する。これからは、人類自身に行く末を選んでもらいたい。人間よ。選定方法に希望はあるか?』
今の人類なら、最優先で神人類会議を開くよう手配するだろう。
でも大昔の人間はカミサマを信じていなかったようで、話し合いにもならなかったらしい。
そんな態度に呆れることなく、カミサマは根気よく各国に現れ続け、昔の人間はようやく話し合いの席を設ける気になった。
しかし話し合うと決まったあとも、話し合いの席をどの国で行うか、いつにするか。もめにもめて、話し合いが始まるまでに一年近くが過ぎたという。
ようやく各国首脳とカミサマが席について話し合いが始まったけれど、これまたなかなか結論が出なかった。
カミサマは『ここは平等に多数決はどうだ』と提案した。
世界が続いてほしいという人間が多ければ存続し、滅亡を望む人間がそれより一人でも多ければ滅ぶ。
地球に生きる人間全員参加の簡単なルールだと。
しかし各国首脳は反対した。
「それだと国の人口によって偏りが出ます。一番人口の多い国の意見が通りやすくなるのは平等じゃない」
「もし大きな自然災害などが起こり、広い地域で気持ちが塞いでしまったら、その瞬間に滅亡が決定してしまう。復興もできずに滅亡するなんて納得がいかない」
「一人でも多くなった瞬間に滅ぶのはいささか性急ではないか」
結局、各国から代表者を選定し、その代表者で多数決することになった。
多数決といっても数が上回った瞬間ではなく、代表者も流動的に移り変わることから、どちらかが0になるまで、と決まった。
極端な話、一人でも世界の存続を望む者がいれば滅亡しない。
その代表者選定も、どういう基準で選ぶのか決めるのに時間がかかった。
抽選か、いや無作為の方が偏る可能性があるなど、意見が錯綜したからだ。
結論としては、まずそれぞれの国の収入額で三段階にわける。
そこから血縁や親戚関係のない健康体と病持ちの老若男女を十人ずつ、計二百四十人となった。
人間が決めた基準で各国の代表者となる二百四十人を、カミサマの力で基準通りに抽選する。
代表者となった人物の名前などは公表されないが、どの国の何人が存続か滅亡、どちらに傾いているかというのが一目でわかる地図を、カミサマは各国に配った。
そこまで決まるのに、幾度か試したこともあって、十年の歳月が流れていた。
最初はカミサマの存在に半信半疑だった人間たちも、その頃にはカミサマを身近に感じていた。
世界存続滅亡マップも、天気予報のように、誰もが毎日確認するようになった。もちろんテレビのニュースにも流れる。
ある時、とある国が勢い良く滅亡に傾いた。調べに他国が潜入したことで、水面下で長年続いていた紛争が発覚し、停戦の末、和解に至った。
またある時は、同じくいきなり滅亡に傾いたことを調査したことで、隠れた部族の
そのたびに滅亡から存続に傾き、人々は安堵した。
代表者は条件から外れるとカミサマの力で自動的に変更される。
収入が条件値からずれた場合、寿命、国籍変更などで、代表者は流動的に変更されていたけれども、各国二百四十人を保っていた。
各国の代表者がそろっていることは、滅亡の可能性を下げる大事な条件だ。
人類は今までに無く、自国にも他国にも自分の家族のように気を配った。
まさに地球人がひとつにまとまった状態だった。
その様子にカミサマも満足していた。
人類はここまで成熟していたのかと誇らしかった。
それが崩れたのは、数百年経って、全人類の収入が安定した頃だった。
全人類が中間層になったのだ。
各国の代表者の条件は、収入を三段階でわけ、それぞれから健康体と病持ちの老若男女十人ずつで二百四十人。
上も下もなくなったことで、代表者の数が一国につき八十人に減った。
その後、寿命も安定した。
老いることがなくなり、生きているか死んでいるかの違いだけになった。
代表者の数は、一国につき四十人になった。
さらに、国という概念がなくなった。
代表者の数は、ただ健康体と病持ちの男女十人という、ただの四十人となった。
ついには性別すらなくなった。
代表者の数は、健康体と病持ちの二十人になった。
そして病をも克服したのだが、ただ一人だけ、病を
その病を解明することは叶わず、その病の者は長い眠りについていた。
だから、代表者の数は十一人だった。
その者が眠りについている間も、人類は進化を続けた。
そうして神にも近しい存在になって数千年が過ぎた頃、代表者十人が滅亡に傾き始めた。
誰も口にしなかったけれど、みんな気づいていた。
飽きたのだ。
地球上での、あまりにも単調で長い生活に希望を見いだせなくなってしまったのだ。
しかし病に眠り続ける一人がいることで、決して世界は滅亡できない。
人々は病を治そうと必死になった。
その結果、病は治ったものの、その人には寿命が現れた。
すでになくなって久しい寿命が、そのまま世界の寿命になったのだ。その人が死ぬときが世界の終わりだ。
地球では、あまりの退屈さからレトロブームがきて、かつての人間のような生活をすることが大流行していた。
そんな必要もないのに、街をつくり、仕事をしていた。肉体をまとい、家族と食卓を囲みながら朝のニュースを見るのだ。
今の人類にとってはごっこ遊びのようなものだ。父親役、母親役、子ども役をそれぞれがその日の気分で決めれば、瞬時にその日だけの家族が決まる。
ニュースキャスター役は大人気で、日替わりどころか一回ごとの交代制となっている。
朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます! 世界の終わりまで、あと一日になりました!」と言う。
もはや神のようになってしまった人類は思った。
明日この世界が終わっても、それはカミサマが作った今の世界が滅亡するだけ。私たちはそれぞれ新しい世界を作るだろう。
この退屈だった生活から解放される日がついに来るのだ。
カミサマは思った。
やれやれ。これでようやく仲間ができる。本人たちにゆだねて正解だった。
……end
と、いうわけで、こっちに持って来る際に、読み直して気になった下記の部分を修正してみました!
一矢射的さま、コメントありがとうございました!
↓
わかりにくいですが、『カミサマの目的はカミサマと同じ仲間を増やすことだった』のでした。
わかりにくいからダメだったんだろうなぁ。
今読むと、今から数千年経っているのに、今と同じようなテレビでニュースを見ているのはおかしいですよね。そこはあえて残された文化だとか書いとかないと(セルフツッコミ)。
世界存続滅亡マップ 高山小石 @takayama_koishi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます