幼馴染の匂い(視点変更)
<御坂葵Side>
「すぅ……はぁ……」
いい匂い。
懐かしいというか、でもなんか新しいというか……すっごく気持ちがいい匂いがする。
ほんと、何嗅いでるんだか私。
付き合ってから三日目でこんなに積極的になってしまって、ほんとに隼人が変態なんて言えない。
私、エッチすぎる。淫乱じゃない、こんなんじゃ。
でも、そんなことを頭の中でも分かっていても——隼人の膝から顔を離すことが出来なかった。
「お、おいっ……」
動揺してる。
なんかすっごい背徳感。
告白したのは私だし、このくらいしてやったっていいわよね。多分。
「——本当に、どいてくれないのか?」
「……うんっ、やだ」
だって、こんなにいい匂いだし。
普通に、別に隼人をいじめるつもりなんかなくても——ここにいたいし。
はぁ……本当に私は、何をやってるんだか。
自分の心が抑えられないというか、別にそうじゃないけど付き合ってから自分の気持ちに素直になった気がする。
あぁ、でもそうなると隼人のももの匂いを嗅いでしまっている私が本当の意味になっちゃうのはなんかちょっとまずい気がする。
そして、私が再び息を吸うと隼人がボソッと呟いた。
「なんでだよっ」
別に理由はない。
ただ、ここにいたいだけだ。
「ここ……」
「何?」
「ここが……いいっ」
そう、ここがいいだけ。
それだけなんだ、私は。
幼馴染の、彼氏の太ももから離れたくないくらい変態なんだ、私は。
もう別にいいや。
「——っ。そ、そうかよ」
「うん」
ははっ、どうだ。
動揺したか。
これで少しくらいは私も反撃できただろうか。
「はぁ、もう分かったよ……」
「ん?」
そう言うのと同時に私は隼人の太ももの上で寝返りを決めた。
ぐるりと半回転、ちょっとだけ胸が邪魔で擦れちゃったが反応的にも気づいていないらしい。
よし、と心の中で頷いて、再び顔を埋める。
心地よすぎる。
どうにか、離れてあげたい気持ちがあるにはあるが——体が言うことを聞かない。
「すぅ……はぁ……」
「え」
「すぅ……はぁ……はぁ……っん」
「お、おいっ―—何嗅いでっ——‼‼」
びくっと肩を震わした隼人のももをぎゅっと掴んで、抱き寄せながら私はこう言った。
「いい匂いだねっ、隼人って……」
「え——」
「いや、なんかね、昔もぎゅってしたことがあった気がするけど……ちょっと違うねっ……」
動揺して、呆気を取られた顔を向ける。
ヘタレ隼人の可愛い顔だ。
「そ、それは……もちろん、成長したからなっ」
成長。
確かに成長したけど——こっちのことに関して言えば、何も変わっていないくせに。何を胸を張って……、まあそんな隼人が可愛いんだけど。
「そ、そうだねっ。いつの間にか私よりも勉強できるようになってたし、体も
おっきくなってたし……それが分かった時にはちょっと悔しかったけど」
「……あぁ、そんなこともあったなっ」
「覚えてるの?」
「いやぁ、まぁな。あの時の葵はワンワン泣いてたし」
は?
泣いたことなんてないし、だれがそんなことをするもんか。
何言ってるのよ、このヘタレ隼人‼‼
「泣いてないし」
「いやぁ……泣いてたぞ」
「泣いてないっ‼‼」
こ、こういうのだけ当ててくるんだから、ずるいし、私ばっかりだ。
「……意地悪っ」
でも、そんな彼を好きなのが私であるのは自分が一番知っている。
どうして、いじわるされてもちょっとだけ嬉しいと思ってしまっているのだろうか。
胸がギュッとなって、ついつい目を逸らしてしまった。
「べ、別に——してるつもりは」
「してるしっ」
「してねぇって……まぁ、いらぬことを言ったのは謝る」
「……隼人のばかぁ」
ほんと、馬鹿だ。
大馬鹿、隼人も私も。
大学生にもなって、中学生みたいに。
「お、おい——痛いって」
このくらいいいじゃん、別に。
そう思いながら痛がる隼人のもも裏を抓っていく。
ぎゅーっと力を強く入れながら、痛がる隼人の顔を覗いた。
「ち、ちゅー」
思わず、口走っていた。
ちゅーがしたい。
とてつもなく、ちゅーがしたかった。
顔が赤くなっていくのが自分でも分かるくらい、私の顔はもの凄く熱くなっていた。
目を瞑り、顔を近づける。
見えない先に、彼がいる。
そんな不思議な背徳感に晒されながら、私はごくッとつばを飲み込んだ。
「え、ちゅー?」
「ん……し、してっ」
焦らさないでほしい。
むずむずして、たまらない。
「そ、それは——まだっていうか……なんていうか」
「だめ、なの?」
「だ、だめじゃない! でもっ、まだ早いって」
「……そ、そっか。じゃあいい」
焦らされた。
また、だし。
さすがに限界値を超えた私はくるりと寝返りを打って、スマホで顔を隠す。
これ以上は、私が暴走してしまいそうだ。
でもいつか、絶対、隼人からちゅーさせてやるんだから。
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