幼馴染が居酒屋でバイト始めたってよ
「私、居酒屋でバイトするっ!」
そんな言葉が飛んできたのは二人で優雅に趣味に没頭していた夜10時の事だった。
葵は掴んでいた汗びっしょりなPSシリーズのコントローラをソファー前の机に置き、勢いよく立ち上がって振り向いたのだ。
あまりにいきなりの事で唖然とした俺は持っていたはずのラノベ「義妹になった男の娘はなぜか女の子になっていて、タイムリープしたら幼馴染になりましたが——ゲシュタルト崩壊で頭が馬鹿になっちゃった」をするりと床に落としてしまった。
パチパチ、数回瞬きをして夢でないことを確認する。
しかし、余韻として耳に鳴り響く文字の羅列に俺は言い返してみた。
「え、今なんて?」
「バイトする!」
「バイト? なんで?」
「なんかやっておかないと駄目な気がするし、やっぱり就職には必要そうじゃない? そういう社会経験はさ?」
「社会経験……まぁ、確かにそうかもしれないけど、葵って先生になるんだろ、中学生の」
「別にそれは関係ないっ。やっぱり来年には成人迎えて本当に大人になるんだし、勉強ばっかりやるのももう終わりにしたほうがいい気がするじゃん」
「お金だって同棲してるんだから結構節約できてると思うし、そこまで身体を酷使しなくてもいいって」
「あ、何、隼人。気遣ってくれるの?」
「ま、まぁ——そうではあるなぁ」
「えへへっ、うれし。でもっ私はやるから、バイト。とにかく絶対、居酒屋でやる!」
「分かったけど……なぜ、居酒屋? つらいぞ、結構。ほら、酔っぱらいの相手しなきゃだし、店長とか怖そうだし。正直、あまりお勧めできない」
「働いたことあるの?」
「ないけどでm——」
「じゃあ分からないじゃん! それに、あれじゃん? せっかくハーフなんだし、看板娘になれると思うの‼‼」
何言っているんだこいつは。
確かに可愛いのは否定しないし、日本人離れした体型は——背の高さ以外は別格だ。ただ、いくら可愛くて整っていても、働き手になる大学生がそんなちゃちな称号で働けるとは思えない。
ましては、葵だぞ。
近所ではかなり有名な天然ハーフ中学生として名を馳せていたんだ。忙しい居酒屋の仕事をできるとは思えない。
「仕事……できるのかよ……?」
「でき……る」
「今一回考えたよな?」
「か、考えてないし」
「考えてるじゃん」
「もうっ、いーーのっ! 私が決めることだし、そこは良いのっ!」
俺が問い詰めると、彼女はムッとした顔をしてそっぽを向いた。頬を膨らませた葵の顔は可愛くてグッとくるものがあったが、甘やかしてはいけない。
「俺はただ、心配してるだけなんだけどな……」
「大丈夫だし、行けるし!」
「はぁ……分かったよ。まぁ、そこまで言うなら泣いて帰っては来るなよ?」
「大きなお世話っ。何でもできるから大丈夫なの‼‼」
「勉強はできないんじゃなかったか?」
「うぐっ。べ、勉強以外ならできるっ。あ、そうだよ! 私、料理作るのは得意だもん‼‼」
「生憎と、最初はホールだと思うけど……」
「ほーる?」
見事な30度。
居酒屋の分担も分からんやつが本当に出来ると思っているのが些か疑問だ。
「まぁいいや、とりま頑張れ。応援してる」
「うん、頑張るっ!」
ニコッと太陽の様な明るい笑顔を見せてくる葵、いつか笑わなくなる気がするのは俺だけなのだろうか?
「いらっしゃいませ~~!」
翌週、俺は葵が働き始めた居酒屋に高峰と来たのだが————なんなんだ、この光景は。
額に汗を浮かべ、愛想のある可愛い笑みを振りまく彼女。
大きな声ではきはきと客と会話し、たまにはおじさんに呼び止められて嬉しそうにしている——昔、どこかで見たかのような風景だった。
「おい、まじか」
「あ、御坂ちゃんじゃん! おひさ~~っ‼‼」
そんな俺の驚きもつゆ知らず、隣にいる陽キャ前回のチャラチャラ男高峰は嬉しそうに手を振った。
「二人ともっ! 来てくれたの⁉」
「あ、あぁ……まぁな」
「いやぁ、居酒屋でバイトしてるって聞いてね、行かずにはいれなくなってさ!」
「えへへっ。ありがとぉ~~、今日はじゃあ、特別に割引しちゃうよ?」
「いいのっ⁉ よっしゃ、ありがと‼‼」
「いいよぉ~~、ほら、隼人も食べるでしょ?」
「あ、あぁ……」
正直、反応が出来なかった。
あんな意気揚々としている葵は初めて見たかもしれない。今も、隣に座る会社帰りのおじさんグループと楽しそうに話しているのが不思議だ。幼少期は見た目もあって良く可愛がられていたがそれとはまた違うちやほや具合で全くと言葉が出ない。
長い銀髪もポニーテールでまとめられていて、謎に人妻感がえぐいし、もしかしたら結婚しているのでは? なんて気さえ湧いてくる。
なぜだか、葵がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がして、居心地はあまりよくなかった。
一通り話し終えた彼女は小走りで俺たちの座ったテーブルに来ると、今度は友達のノリでこう言った。
「はーい、おまたせっ。ご注文はっ?」
「えっとー俺はこれ、もう20歳だし、酒飲んじゃうわ」
「え、高峰って20歳なの?」
「おう、浪人したしな一年だけ」
「そ、そうか」
いや、なんか割とすごそうなカミングアウトを受けた気がするが——葵のせいであまりジンとこない。
「ウーロンハイ一つと——んと、この唐揚げ5つでっ。隼人はどうする?」
「お、俺は——じゃあ、コーラで」
「食べ物はいいの?」
「……いい。高峰のもらうから大丈夫」
「え、俺の取ることになってるんだよ⁉」
「だめ?」
「い、いいけど……まぁ」
「んと——それならおまけで3つ付けちゃうけど……それでよさそ?」
「いいのか?」
「うん、大丈夫っ!」
「じゃあ、それで!」
振り返り、厨房へ目配せをした葵の視線の向こう側にはグッジョブと親指を立てる店長らしき難いのいい大男がいる。いくら友達でも、さすがに悪い気がするが——まったく妥協しない高峰に俺はついていくことしか出来なかった。
「はーい、じゃあ待っててね~~」
それから始まった第一回飲み会(仮)、俺はただただ高峰の話に相槌を打ちながら働く葵を見つめる事しかできなかったのは——胸の内にとどめておこう。
<あとがき>
お久しぶりです。ロリコンのふぁなお伍長です。
☆70、フォロー250突破ありがとうございます。最初程勢いはありませんが週間ランキングも順調に伸びて29位を頂けました。これからも頑張ります。
PS:最強のおっぱいバブミが欲しいです。恵んでください。
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