入学式そうそうカップル認定されました


「なぁ、二人って付き合ってるのか?」


「それ! 私も思った‼‼」


 先程、1時間半に渡る長い長い入学式が終わり、大学会館の前でそれぞれの学部やサークル内での交流を深めるためにたむろしている中、俺たち二人も飲み込まれていた。


 しかし、なんだ急に。

 工学部の生徒を見つけたと思ったら、まさかのこの仕打ち。


 いやはや、幼馴染にこの世界は優しくないのか?


 



――――――――――――――――――――――――――――――


 とはいえ、こいつらの自己紹介が遅れた。


 まず、俺の目の前にいる高身長な金髪男子は工学部機械学科新一年の高峰翔たかみねかける


 そしてその隣、葵の手を握りながらウハウハ感醸し出している陽キャラ全開な女子は教育学部小学生英語科新一年の椎奈麻由里しいなまゆり


「だ、だから——俺らは付き合ってはいないって! ただの幼馴染で、昔から一緒なだけだよ」


「え、えぇ……そんなわけ‼‼ だって大学初日だろ? そんな日なのに二人だけで来ている時点でそういう関係だろ‼‼」


「頼むから、あらぬ誤解を生むからやめてくれ……」


「えぇ~~なんか残念だなぁ」


「高峰君の言う通りだよ、ほんとに付き合ってないの?」


「わ、私は——その、別に付き合ってるわけでは……」


 椎名さんの疑問にもじもじと答える葵。なぜ、膝を擦り合わせてるんだ。思わせぶりか? 本当に付き合ってるって思われるだろ、だいたい同じ家に住んでるだけでヤバいのに。


「あらぁ、なんかもじもじしてるけどぉ?」


「い、いやな‼‼ だから付き合ってはいないんだ! その、ほらっ親友って言うか、ずっと昔から一緒で、な?」


「っ——は、はい」


 俺がそう言うと葵は少し間を開けてからコクっと頷いた。


「そ、そうなんだぁ~~まあでも脈ありだよね、それってさ?」


「確かに、二人とも幼馴染で同じ大学で親友って——恋人に昇格するやつでしょ、絶対」


「ま、まぁ……無きにしもあらずだけど……」


「……」


 なーんで貴様は答えないんだ‼‼


 まじでそうなのか? もしかしてだけど、好きだったりするのか?


 いや、まあ、少なくとも幼馴染として好かれているとは思うが——先日に否定されたし、おそらくだが恋愛関係的なものではない。


 それに、俺だってまだ、フラれたことを割り切れたわけではない。もしもそうなら、もう少し経ってからじゃないと無理だ。


「はは~~ん、なら、葵ちゃん? これは楽しみだねっ!」


「っ~~や、やめてくださいっ」


「ほんと、やめてくれっ……」


 真っ赤に染め上げた頬を手で覆い隠してそっぽを向く。そんな姿に思わずドキッとしたが、騙されまいと頭を横に振った。








 その後、数時間にもわたった部活動紹介も無事終わり、高峰と椎奈とは別れ、俺たちは二人、帰路に着いた。


「大丈夫か、葵?」


「え……あぁ、うん」


「首、痛いのか?」


「ま、まぁね……長かったし、ちょっと寝違えたかも……」


 首に手を添えてぐるりと一周させる彼女。


 それもまあ仕方がないだろう。先輩たちが頑張ってくれた催しに寝ていたバツだろうと思いつつも……やっぱり、実際のところ、あれをずっと起きれるやつはいないだろう。


 案の定、俺も寝た。というか、普通に葵に寄りかかっちゃったし、バレてないかが心配だ。


 まあバレてるだろうけど、というか、それで首痛くなったまでもある。謝ってはおいた方がいいか……。


「——俺のせいだったらごめん」


「え、なんで?」


「あ——違う、のか?」


「うん、別に……ていうかなんかしたっけ?」


「いやぁ……それなら、なんでもないっす」


「そ、そう?」


「あぁ」


 おっと、どうやら違うらしい。

 まあ、バレてないなら別にいいか。


 それから数分ほど沈黙が続く。


 高校の時も一緒に帰った時はあったが徒歩で軽く通える距離だったからあまり長い間話したことはない。それのせいか分からないがそれ以上、会話は弾むことはなった。


 それでもなぜか、不思議と心地よかった。

 昔の様な感覚、どこか懐かしくて……それでも新鮮で。


 まさか大学生になっても、スーツなんか着ちゃっても一緒に歩けるなど思ってもみなかった。幼少期に結婚か何かの約束をした気もするが——それもあと少し、叶いそうだなんて……まあ、俺が言えた話じゃないか。


 一度裏切った俺には言えるはずもないだろう。傲慢で、傲岸不遜で、自分勝手だ。


「……それにしても、私たち、もう大学生になったんだね」


 そんな贖罪の念がふつふつと湧き上がってきた最中、隣をてくてくと歩く葵がそう呟いた。


「大学生な、確かに早いかもな」


「えへへ、そうだね。なんかすっごく大人になっちゃったんだなって気がする」


「大人か……」


 はてさて、俺は大人になれているのだろうか?

 そんな疑問が突如、頭の中を過ぎった。


「隼人は結構大人だよね」


「え、俺が?」


「うん」


 まさか、そんなわけはない。

 18歳にもなって幼馴染に慰められているような男子大学生を大人になったというのだろうか。


「だってね、すっごくかっこいいし、頑張るし——それに頭だっていいし……あ、あぁこれ、普通に褒めているというか、変な意味はないからね?」


「ははっ……分かってるって」


「でも、凄く大人っぽくてかっこいいかも」


「買い被るなよ、なわけないって」


「なわけあるよ」


 笑わせるな、俺は自分で分かっている。


 葵に慰められることがなければこんな風に立ち直れていなかった。二年間に及ぶ片思いを割り切れたのはそれ以上に関係がある葵がいたから。むしろ、そんな俺を見ても自分のように思ってくれる葵の方が大人だ。


「……そんなことないけど、隼人って変に頑固だからね。分かってくれないか」


「うん、分からない」


「もう、つまんない……あ、それじゃあさ、私はどう? 私は大人っぽく見える?」


 ふわっと銀髪が待って、葵は俺を見つめる。

 どうやら期待の目を向けているようだ。


「俺から見た、葵か?」


「うん、そう、どうかなっ?」


「そうか、葵は——そうだなぁ……」


「うんうん、どう?」


 ニコニコ笑いやがって……どうも、むず痒い。


「俺から見た葵は——————子供、かな?」


「んげっ!?」


「うん、小さいし、胸以外は」


「む、胸って……隼人じゃなかったら今すぐ叫んでるよ、それ」


「事実です」


「ていうか、子供なのっ、私? りょ、料理だってできるけど?」


「まぁ、なんかな、なんとなく子供っぽい」


「……もしかして、童顔だから?」


「ははっ、それ含めたらメスガキだな」


「っ⁉ ひ、ひどいっ‼‼ 含めなくても子供なのが酷い‼‼」


「ははっ……これからも精進してくれな」


「っぅ~~~~‼‼」


 嘘も本当もある。

 もちろん、彼女は大人に見える。



 プルプル震えるこの幼馴染には―—俺が思う本音はまだ、お預けだがな。


 

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