幼馴染の寝顔とチー牛
「すぅ…………はぁ……んっ……」
そんな寝息を叩ているのは我が幼馴染、御坂葵。
今日は朝から明日の入学式で使うスーツを買いに行き、昼ご飯を作り、家具作りに専念したせいか気持ちよさそうな寝顔が見て取れる。ぐっすりとした寝顔はまさに天使のようだった。
大学生になったという緊張感と新しい友達ができるかどうかという期待、不安。同じ旧ぐうにいる俺も良く分かるが、そんなものが重なっているだろうにいつも支えてくれているのはありがたい。
「んあぁ……めろん、ぱんっ……」
「っ……変な寝言だなぁ」
「ぱふぱふっ……」
「はぁ、まったく可愛いな……」
昔からそれは変わらないが、思わず言葉が漏れた。
おかしな寝言、確か……葵はメロンパンが好きだった。昔見た現代ファンタジーのアニメのヒロインがよく口にしていて、それを真似していたらしい―—というか俺も一緒に見ていた。普通にその可愛さは変わらないな。
「ふぅ……にしても、さすがに2時間も膝枕状態はきついものがあるな」
だんだん膝が痺れてきた。
筋トレもしているし、それなりに自信はあるし、体重の軽い葵の頭位どうってこともないと思っていたがさすがに限界みたいだ。
「まだ夕方なんだけどなぁ……」
夕飯はどうしたものか。残念ながら俺は料理ができないけれど、だからと言ってぐっすりと寝ている葵を起こすわけにもいかない。今日は牛丼でも買ってくるのもありだろうか。
そんなこんなで数分ほど考え込んでいると。
ピンポーン。
と玄関のチャイムが鳴った。
「あれ、なんだろ? 通販なんて頼んだっけ?」
通販サイトに身に覚えはないし、ここは大学生しか住まない生協の格安マンションだ。このご時世に大学生が隣の住民に挨拶などするわけもない。
そんな疑問を浮かべながらもゆっくりと葵の頭をソファーに置いて、俺は玄関へ向かう。
すると、もう一度。
ピンポーン。
「はいはい、待ってくださーい」
「宅急便でーす」
「はーい」
ガチャリ、手に掛けると——どさっ。
何か変な音がした。
「ま、まままま、待って‼‼」
背中に何か温かく柔らかいふわふわな何かがぶつかったと同時、焦った声が玄関にて響く。
「え、あ、葵?」
「ちょちょ、ちょっと待って‼‼」
「は、はぁ」
配達に来たお兄さんと俺の手ががっしりと掴まれ、俺は後ろ側に引き戻される。
額に凄まじいほど汗を浮かべながら、彼女は俺のぐっと腕を掴んだ。
「まま、待って‼‼ ちょ、わ、私がやるから‼‼」
「んな、さっきまで寝てた―—」
「いいから、ここは私がやる!!」
「俺がやるから寝ててもいいって」
「いいの‼‼ ここは、私が、やるの‼‼ だから、良いの‼‼」
ギロリ。
碧眼が焦りの中、俺を睨む。
そんな瞳に怯んだ俺は一歩だけ下がると、葵が胸と髪をふわっと揺らしながら前に割り込んだ。
「あ、ここにサインを……」
「は、はいっ……えっと、これでいい?」
「はいっ! ありがとうございました~~」
「どうもぉ」
若干の引きつった笑みを溢し、配達のお兄さんは逃げるように去っていく。どうやら、葵の表情が怖かったらしい。
「はぁ……びっくりした……」
「ど、どうしたんだよ、そんなに急にさ?」
「だ、大丈夫っ‼‼ 関係ないから、隼人には‼‼」
届いた30センチ四方のダンボールを抱きしめながら叫ぶように言う葵。そこまで必死に守らなくていいだろうに……おかげで、胸がぐにゅーってなってる。もはや銀髪など属性でしかないくらいに目だっている。
眼福だ。
男としての何かが高ぶるな、これは。
「はいはい、そうか……分かったよ」
「ふぅ……ありがと」
「おう。それで、晩飯とかどうする? もう18時だけど」
「え、あぁ……どうしよ……なにも作ってないや」
「まぁ、そういう日もあるだろ。牛丼でも買っておこうか?」
「え、いいの⁉」
「うん……ど、どうかしたか?」
「いやっ、な、なんでもない……頼みます、お願いしますっ!」
「は、はぁ……?」
そうして、押し出されるように部屋をほっぽり出された俺は近くにある牛丼屋へ向かった。
「ご注文は?」
「えっと、とろーり4種のチーズ牛丼の普通盛り一つと……」
あーっと、葵が何食べるのか聞いてなかった。数秒悩んだ末、俺は同じのを一つ頼むことにした。
「では、とろーり4種のチーズ牛丼の普通盛り二つですね~~、一つじゃなくていいですか? キングで?」
「え、いや——別に」
「あ、了解でーす。ちょっとすみません、お客さんチー牛かとっ……ほら、あるじゃないですか? ツイッターで流行ってるやつ!」
「は、はぁ……とにかくそれで」
「ははっ、了解しました~~1000円で~~す」
「レシートは要らないっす」
「はぁ~~い」
てか、なんなんだこいつ。
俺の事チー牛だとか何とか……馬鹿なのか? 最近までSNSは断絶してたから意味は分からなかったけど。
そんなこんなで牛丼二つをぶら下げて帰宅した後。
「ぶはははっ‼‼ 何それ、マジ!?」
「な、なんだよ……そんなにあれなのか、チー牛って?」
「さすが隼人だね、勉強しかしてなかったしね、知らなくても当然かぁ~~」
ニヤニヤと笑みを浮かべる葵。いつものような微笑みとは違い、あからさまに俺を侮辱しているようだった。
そんなにヤバい言葉ならこの前みたいに怒ってくれたっていいのに……と思ったが、それは次の瞬間、真面目に思うことになる。
「簡単に言うと……あれ、陰キャって馬鹿にする言葉だよ?」
「え?」
「馬鹿みたいに気持ち悪くて、臭そうでうるさそうな彼女なんていない―—陰キャって意味かな?」
「っ————!?」
<あとがき>
日間ラブコメランキング11位、週間ラブコメランキング50位ありがとうございます。もしよろしかったら……☆2でもいいので☆評価頂ければ幸いです‼‼ というか、頂ければ最高に嬉しくなって、焦らしが捗ります‼‼
まあ、今回は主人公がいじめられましたが……。
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