1 手を繋ぎたい。

この幼馴染やっぱりちょろいんじゃないのか?


「ん……ぁ……」


 翌朝もその景色はほとんど変わらない。


「あ、起きた?」


 と顔を覗く銀髪碧眼の幼馴染。


 あまりの近さに思わず背筋がビクッとしたが、同時に香った女の子のいい匂いに腰が蕩ける。


 ————って何を言っているんだ、俺。


「ん、あぁ……おはよ、葵」


「おはよ、隼人はやと?」


 何故か疑問形で返した葵。手にはお玉があり、おそらく卵スープか何かを作ってくれているのだろう。


「ふぁあ……いやぁ、今日も朝からご苦労さんだな」


「うん、ご苦労さんだから後で肩揉んでね?」


「あいよー」


「布団片付けておいてね? 私、ささっと作っちゃうからさ」


「たたんで押し入れだろ?」


「そ、よくできました〜〜」


「まだやってないんだけどな……」


「はいはい、いいからやっといてね〜〜」


 鼻歌まじりに戻っていく後ろ姿にふと、笑みが溢れた。ああ言う天然なところは少し可愛い。





「ふぅ……終わったぞー」


「あと5分だから、お皿お願い〜〜ふんふんっ〜〜♪」


「あいよ〜」


 思わず、俺まで口ずさんでしまいそうだ。


 しかしまあ、生まれてこの方、幼稚園から大学まで一緒の関係なら、もはやいつもの掛け合いではある。彼女がこう言う性格なのも知っている。


 高校の頃はお互いに部活や生徒会で忙しかったため中々二人で入られることはなかったがそれでも掛け合いは今も昔も変わらない。


 こうやって時間作って頑張ってくれるところはありがたいし、心底感謝している。


 あのフラれた日から立ち直れたのも正真正銘、葵のおかげ。結局、あの日の夜も葵の部屋にお邪魔して大泣きしたのも覚えている。


 そんな俺を優しく抱きしめてくれるのだから、本当にいい幼馴染を持った。


「ほい、ご飯」


「おう、ありがと」


「今日はトーストかぁ」


「うん、好きでしょ?」


「好きかって言われたら、まぁそうだなっ。パン系の方が好きだ」


「今度、パンも作ろうか?」


「え、いいの? パンツ食ってれるの?」


「……誰がパンツを食べるんだよ。うわっ、まさか、昨日の選択で私のパンツたべっ―—」


「なわけないだろ、あんな汚いの誰が食べるかよ?」


「自分が言ったんでしょ! って……今、なんて言った? 私のを汚いとか何とか……」


「黄色いしみg——」


「わぁぁあああああああ‼‼ ききたくなぁぁああああああああい‼‼‼」


 意地悪くそう言った俺に被せて叫び出す葵。


 そんな頬を真っ赤にした幼馴染を横目に俺は黙々とトーストを齧るのだった。








 朝食を食べ終え、二人分の小さなソファーに座った俺と葵。背中をくっ付け合いながら、俺は小説を読み、葵は最近話題のアニメを視聴していた。


 

 あまり考えたことすらなかったが、どうして女の子の体というものはこんなにも暖かいのだろうか。


 柔らかく、暖かく、そしてどこかに温もりを感じる。


 背中だけでもこれなら、きっと精一杯抱きしめたらどれだけ良いものなのか……卒業式の夜はそんな余裕もなかったから仕方ないが……今、後ろから抱きしめたら……なーんて。


 何考えてるんだろ、俺。


「ねぇ、何読んでるの?」


「え、あぁ……ラノベ」


「それは見たら分かるぅ」


 俺の右肩に顔を乗せて、頭を覗かせる彼女。「ふぅ」と吐息が耳にかかり、背筋がビクッとした。


「っ」


「うわっ、ど、どうしたの?」


「いや、息——」


「ふぅ~」


「っ⁉ な、何するんだよ‼‼」


「さっきの仕返し……?」


「はぁ……別に俺は何もしてないじゃん」


「さっき言ってたじゃん、パンツが……あぁ、だめ、やっぱりだめ」


「黄色」


「っやめ」


「黄色」


「ぶん殴るよ?」


「はい、ごめんなさい」


 満面の笑みに、血管が浮いた拳。


 これには神様もちんまり。

 さすがに武力行使はなしだ。

 俺はすぐさま両手を上げて、降参の意を示す。


「まぁ、許す。洗ってくれているのは事実だし、お父さんに洗われるのよりはマシだし」


「言い方……」


「だって、事実だもん。お父さん臭いし!」


「そこまで言わなくてもなぁ。おじさんがかわいそうだろ……」


「だって、お父さんに見られたくないもん。あの人、なんか気持ち悪い」


「もう、それ以上言うな、おじさんが本気で可哀想だから……」


「は、はぁ……?」


 首を傾げる葵の後ろについついおじさんの可哀想な姿が見えてしまう。


 きっと葵に「一緒に洗わないで!」とかなんとか言われて咽び泣いているだろうに……。俺だったら耐えられない。


 いはやは、昔からよくしてもらっているし、お風呂も一緒に入ったことがある俺だからこそ、その辛さ凄く分かる。


 おじさんは良い人だから……だからあんなに綺麗なヨーロッパ系のカレンおばさんと結婚出来たって言うのに、娘がこうだと……なかなかどうして、世界は優しくないな。


「まあいいや。それで、その本って何ていうやつ?」


「え、これか?」


「うん、銀髪の……かわいい……女の子の?」


「あ、あぁ、『おさいも』、『幼馴染が義妹になったせいで同棲が始まりました』ってやつ、A LOT OF義妹先生の」


「な、なにその名前……」


「A LOT OF義妹先生」


「随分とえぐい名前……」


「引くなよ。この先生の小説面白いんだぞ?」


「いやぁ……そう言われましても」


 それでも引き気味な顔で苦笑いを浮かべた葵、しかし同時に彼女はぼそっと呟いた。


「(幼馴染か……)」


 ほらほら、そこの幼馴染ちゃん。聞こえてますよ。すごく。


「どうした?」


「え、いやぁ……なんでもっ」


「この本がどうかしたのか?」


「ち、違うしっ……! とにかく、そうじゃないからっ‼‼」


 そう言って、ソファーを焦り気味に立ち上がった彼女はそそくさと寝室に向かっていった。


「昔から思ってはいたが……こんなにちょろそうなのに、誰にも堕ちないのはほんと、不思議だよな」








《あとがき》


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 すこーし焦らしたプレイ①完了。

 

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