居酒屋で先輩が色々教えてくれたの!(御坂葵side)


<御坂葵side>


居酒屋で働き始めてから1週間が経ったある日のことだった。


「ねぇ、御坂くんってどこの大学通っているの?」


「大学、ですか?」


「うん、大学~~」


「駅前のところですね、ここから一番近い距離にあるっ」


「駅前…………あぁ、あそこ! あの国立大学かぁ……いやぁ、頭いいんだねぇ」


 そう言ったのは私を雇ってくれた店長こと「ひもじい」。あだ名はここの店名「ひもじい屋」からそのままとったもので、私以外の従業員は全員このあだ名で呼んでいる。最初こそ、抵抗はあったが今ではもう盾について来ている。


「いえいえ、私なんて下から数えた方が早いくらいなんですから、劣等生ですっ」


「そんなことないっ、あそこに行けるだけでもけっこなエリートだよ? 僕なんて大学なんて通ってすらいないからこんなところで居酒屋経営してるんだし……」


「私的にはむしろ、ひもじいのほうが凄いですよ! お店なんて普通は開けませんって!」


「ははっ、簡単だよぉ」


「いやぁ、そんなことないです!」


 ニコニコと優しそうな笑みを浮かべるひもじい。相変わらず、隼人に引けを劣らない可愛さだ。私の先輩も全員可愛がっているのだが、さすがの私はそこまではできない。尊敬の念があまりにも大きすぎてあだ名が限界だ。


 そんなこんなで、もう人も少ない営業時間ギリギリの店内でゆったりテーブルを水拭きしていると——


 トントン、と肩を叩かれた。


「な、なんですか?」


「お疲れさんっ、みさあお~~」


 振り向くとそこにいたのは私と学部の先輩でもあり、ひもじい屋では教育係としていろいろなことを教えてくださる矢吹健太さんだった。


 耳には三つピアスを付けていて、赤と金のメッシュの長髪は後ろで一つ結びされていて、隼人真反対の人だ。私も最初は少し怖がっていたが見た目の割に優しい性格に最近では普通に離せるようになってきた。


「あ、矢吹さんっ、お疲れ様ですっ。もう終わりですか?」


「いやいや、俺もみさあおが終わるまで残ってるよ~~。夜遅いし、送ってやる」


「え、いいんですか?」


「おう、今日は車で来たしパパっとな!」


 胸を張り、頼もしく笑う矢吹さん。

 頭2個分ほど違う身長の彼はこんな感じにチャラっぽい所はあるが、何でもできて私の憧れの先輩でもある。


「ありがとうございます!」


「おうよ、じゃ、一緒にちゃちゃっと片付けちゃおうぜ!」


「はいっ!」









 そして、30分後。


「お疲れ様でーす」


「お疲れ様でした、先帰りますね~~」


「はーい、明日も大学頑張ってね~~」


 私たち二人はひもじいの見送りでお店を出た。すぐそばの従業員用の駐車場に入ると矢吹さんの高そうな車が見えてくる。


 外車ってわけではないが、学生が買うにしてはかなり高そうな見た目の車に私は少しだけ胸がドキッとした。


「ほい、どうぞっ」


「あ、ありがとうございますっ‼‼」


「いいよぉ~~」


 ギュッとなった胸を深呼吸で落ち着かせ、私はゆっくりと助手席に乗る。


「緊張してる?」


「えっ⁉ あ、は、はいっ……少しだけ」


「だよねぇ、仕事終わったのに汗凄いから。ほら、これで拭きな」


「は、はい……」


 渡されたベージュ色のハンカチで頬と額を拭き、ポケットにしまった。


「あぁ、いいんだよ? 洗わないで、俺が家で洗っとくし」


「大丈夫ですよ、礼儀ですっ」


「ははっ、みさあおがそういうなら頼むよ」


「はいっ」


「よし、それじゃあいくよ~~」


「お願いしますっ」


 すると、彼は慣れた手つきでガチャガチャと操作し、一気に発進させた。


 窓の外を見ると暗い夜道。何も見えない暗闇が辺り一面を覆っていた。いくら都会の方にある居酒屋とは言っても深夜にもなると話は別だ。シンとした不気味な道路で、矢吹さんがいなければ一人で帰っていただろう。運がよかった。


「みさあおは最近どう? 大学には慣れた?」


「え——ど、どうですかねっ。まだまだ序盤何で良く分からないですけど、だんだん不規則な時間割にも慣れてきました」


「ははっ。高校の頃はびっしり入ってたもんね。まあでも、一年生だから結構教養の授業取ってるんじゃないの?」


「一応、そうですけど————高校ほどではないので大丈夫ですっ」


「なら良かったよ。あ、でも、余り調子乗って単位落すことはないようにな。あとで痛い目見るから」


「単位……怖いですね、そう言われてしまうと」


「みさあおは大丈夫だと思うけどね、普通にやってれば大丈夫だから。でも、さぼり過ぎると俺の友達みたいに留年するから、ちゃんと気を付けた方がいいかな。教授なんて自分勝手だし、自らやらなきゃ何にもならないしねっ」


「え、えぇ……」


 悪気はないのだろうけど、普通に怖かった。高校の頃なんていくら赤点をとっても先生が何とかしてくれるけど、やっぱり大学ともなると違うのだろうか。


 そう考えると就職した友達が若干羨ましく感じる。


「ははっ! 怖がるなって、みさあおなら大丈夫っ。俺が保証するよ! 医学部でもないんだしさ、気楽にいこうぜ!」


「そ、そうですね……」


「あ、それでさサークルって————」



 そこから始まった矢吹さんとの会話。マシンガンのように飛んでくる話題に、私もいつの間にかノリまくっていた。気が付けば家の前に車が止まっていて、短くも楽しい時間も案外早く終わってたのだった。



 隼人にも、人は見かけによらないんだよって言ってあげないとね。

 明日からまた、頑張ろっ。 


 







<藤崎隼人side>



「な、なんなんだ、あいつっ——‼‼」



続く。







<あとがき>


 ラブコメランキング週間26位ありがとうございます!


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PS:別の話ですが、最近、彼女から二週間ほどラインが返ってきません。やばいです。

 

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