第65話 森を抜けた

 あの後、今度は異常状態になるのに気をつけて森を抜けた。

「迷いの森も大したことなかったのじゃ!」

 ミリムはあたかも自分の力のおかげで森を抜けたかのように呟いた。

「あの......ミリムさんは何もしてないんですが......」

「何を言っておるんじゃ。わしは昔から運がいいのじゃ。つまりわしがおったおかげで抜けられたということじゃろ?」

 カーミラは呆れたような言葉にミリムが謎の理屈で自分を正当化していた。

「そ、そうですね......」

 これ以上この話に触れない方が良いと思ったのかカーミラはそこで話をやめた。

 私はカーミラの肩を叩いて無言でうなずいた。それが正しい判断だよという意味を込めて......ね。

「さあ、早く行くのじゃ! ぐずぐずしているとまた移動してしまうかもしれんのじゃ!」

 ミリムの地味に耳に痛い大きな声がしたので仕方なく立ち上がって歩き始めようとする。

「ん......ちょっと待って? 『また』ってどういうこと?」

「何じゃ? 聞いておらんかったのか? 森の中で話したじゃろ? 向こうも移動しておるんじゃ」

 ......聞いていないんじゃなくて、そもそもそんな話はしていない。

 いまさらそんなことを突っ込んでもしょうがないので別のことを聞いてみる。

「じゃあ今はどの辺にいるの?」

「あっちの方向に60キロの距離にいるのじゃ」

 私の質問にミリムは前の方向を指さしながら答えた。

「60キロって......さっきより離れてるじゃない......」

「それはしょうがないのじゃ。いくらわしが魔法の天才とはいっても移動速度を上げるような......あ」

 ミリムは何かを思いついたかのようにポンと手を打った。

「とりあえず何を思いついたか聞いてもいいかな?」

「身体強化魔法が使えるんじゃった。これを使えば移動速度もアップするのじゃ!」

「早く言ってよ......」

 私はそう突っ込まずにはいられなかった。

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