第58話 危ない人

「「危ない人」」

 ちょうどいいタイミングで私とカーミラは声をそろった。

「お主ら! せめてもう少し言葉を選んで言えんのか!? やっぱり協力するのをやめようかの。せいぜいがんばって探すのじゃ」

 そう言って右手を上げてミリムはその場を立ち去ろうとする。

「カーミラ、どうやって探そうか?」

「ギルドでの聞き込みは難しそうですし、街中で聞き込みをするのはどうでしょうか?」

 立ち去るミリムを放置して私たちはチカちゃんを探す相談を始めた。

 すると、ミリムがこちらに向かって足早に戻ってきた。

「こらー! 普通はあのタイミングで『ちょっと待ってください! 謝りますから協力してください!』とお願いするじゃろ!」

 私とカーミラはお互いに顔を見合わせる。そして無言のまま意思疎通をする。これは構ってあげないと逆にめんどくさいやつだと。

「ご、ごめんね。危ない人って言ったのは謝るけど、残念だけど私たちチカちゃんの匂いがついているもの持っていないんだ。残念だなぁ......」

 と、私は手を顔にあてて残念がるふりをした。

 我ながらなかなか演技じゃないだろうか。匂いがついているものがないなら帰ってくれるよね?

 念のため手の隙間からミリムの様子をうかがう。

「ふっふっふ.......心配ご無用なのじゃ! 体毛とか体の一部とかでも大丈夫よ」

 ミリムは目をカッと見開いて私たちを指差す。

 私は今度は耳打ちするようにカーミラに聞いてみる。

「今度は恥ずかしげもなく体毛を要求してきたんだけど......やっぱり危ない人なんじゃない?」

「ええ、間違いありませんね。幼女の体毛を欲しがるなんて危険すぎますね」

 私はカーミラと意見が一致した。

 よし、それじゃあ帰ってもら......

「わしの耳はどんな小さな音も聞きとれ言っとるじゃろ! 全部......全部聞こえておるぞ! わしがいかに優秀か証拠を見せてやる!」

 そう言ってミリムはカーミラに近づいて来て服をクンクンと匂い始める。

「分ったのじゃ! お主は女じゃな!」

「はい......そうですけど」

 ミリムに自信満々に指を突き付けられたカーミラは困惑したように答えた。

「いやいや! ちょっと待って......人探しするんじゃないの?」

 私は突っ込まずにはいられなかった。

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