第27話 藍晶と翠晶
グレーチェは城の中、水晶を用いてククリルたちの様子を眺めていた。
「……ユリの上で私の《・・》ククリルと百合百合して浄化するなんて……許せないわ」
苛立ちを隠せずに爪を噛む。
手入れをしたばかりの爪だったが、そんなことすら怒りで頭から飛んでしまっていた。
「あの二人……いえ、忍者も含めて三人、やっぱり邪魔ね……」
月の聖女を愛でるのは自分だけでいい……仲むつまじい姿を見させられるのは我慢ならなかった。
「
グレーチェが呼びかけると、静かに玉座の間の扉が開き、
「なんでしょうか、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様」
「お呼びでしょうか、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様」
同じ容姿をしたふたりの少女が姿を現した。
その見た目は幼く、まだ10歳にも満たないように見える。
「そばにいらっしゃい」
はい、と答えてふたりはグレーチェのそばへ。
玉座に座るグレーチェの左右に腰を下ろし、太ももにしなだれかかる。
これがいつものスタイルだった。
「ねえ藍晶……藍晶は私のこと好きよねぇ?」
「はい、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様。藍晶はあなた様を愛しています」
「翠晶……翠晶も私のこと好きよねぇ?」
「もちろんです、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様。翠晶はあなた様をお慕いしております」
「そう、なら私のために命を投げ出せるわね?」
「それが、藍晶の喜びです」
「それが、翠晶の願いです」
「そう」
グレーチェは満足そうに微笑んだ。
あの魔物大臣とはちがう、この双子こそがグレーチェの腹心であり唯一信頼の置ける『駒』だった。
「なら、月の聖女を私のもとへ連れてきなさい」
「はい、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様。この命に代えても月の聖女をこの居城に」
「かしこまりました、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様。必ずや任務を遂行してみせます」
グレーチェはふたりを抱き寄せて慈しむように頭をなでる。
そして首筋になめくじのように舌を這わせた後、牙を突き立てた。
「いいわぁん……あなたたち最高よぉん……」
喉が鳴り、血が滴る。
ひとり飲み終えると、もうひとりに。
血を吸われているというのにふたりは眉ひとつ動かさない。
「藍晶……翠晶……頼れるのはあなたたちだけ……お願いねぇん……」
はい、とふたりは返事をした。
ただ無機質に。
(つづく)
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