第26話 黒歴史だって、友達となら青春の1ページ
あられもない姿を見られて、逃げるように街を立ち去った。
「…………」
立ち去る他、なかった。
「う、うう……」
「クーちゃん、ほら、元気出して」
「お姉さま、人間誰にでも失敗はありますわ」
うつむくわたしにふたりはやさしい言葉をかけてくれる。
「で、でもねふたりとも! あんなに大勢の人に下着姿見られちゃったんだよ!? わたし、存在しないお洋服を「見える!」なんて言っちゃって……敵さんからもらったお洋服を着た気になってて……そしたらなんにも着てなかったんだよ!? そんなのただの変態さんだよ!?」
「あ~、いや、それは……」
「そ、そう言われますと……」
「ご家族の健全な性教育にも悪影響を与えちゃって……あ~ん! やっぱりもうお嫁にいけない~! 修道院に入る~!」
ワッ! と泣き出してしまった。
街を出てから何度も何度もフラッシュバックして、泣いてばかりいる。
わかっちゃいるのにやめられない。
止まらない。
だって、あんなの死にたすぎる。
「だから、そう落ち込むことないんだってクーちゃん」
「で、でもっ!」
「むしろさ、敵に騙されてなんにも着てないのに、それでも服への想いを力に変えて戦うクーちゃん、カッコよかったよ?」
「……え?」
「ま、もしお嫁にいけないっていうなら、わたしがもらってあげるからさ」
頬を掻いて照れて笑うミーちゃん。
「ミ、ミーちゃぁあああん……」
そのやさしい言葉が、胸に染みる。
「そうですわお姉さま。わたくしもお姉さまならばこれでもかというくらいにもらっても問題ありませんの」
ベルちゃんもいつも通りに抱きついてくれた。
「ふたりとも……」
ああ、持つべきものは友達だ……。
あんな死にたくなってしまうくらいに恥ずかしい思い出だって、ふたりが笑い飛ばしてくれれば笑い話にできそうな気がする。
「黒歴史だって、友達となら青春の1ページになる」って誰かが言ってた……、というか、今わたしが考えた。
「……うん」
いつか、きっと。
*
やっと落ち着きを取り戻し、汚染された山を登っていくとひらけた山頂に出た。
「う、わぁ!」
そこは一面の白いユリ畑、山頂だけはいまだ汚染をまぬかれていた。
「ミーちゃん! すごい! 真っ白に輝いてるよ!」
「うん……これはすごいね……こんなに見事に咲き誇るユリは見たことないよ……」
「幻想的な光景ですわね……」
「あ! ねえねえ! ここからならフルーチェさんのお城がよく見えるよ!」
「グレーチェね」
三人並んで景色を一望する。
先の道のりは険しく、真っ黒な景色が続いていた。
「さすがに
「やったぁ!」
ぴょんと跳ねる。
「ね! ね! それならわたし、この白いユリのお花を着てみたい!」
「それって、『お着換え』ってこと?」
「うん!」
「いやぁ、さすがにそれはムリなんじゃないかなぁ……」
「そうかなぁ?」
「ん~……あ、でもこれならできるかな。ちょっと待ってて」
ミーちゃんはお花畑の中に入ってお花を摘み始めた。
「?」
しばらくして、ハニかみながら戻ってきた。
「ほら、これ」
「……わぁ」
差し出されたのは白い花かんむりだった。
「…………」
そっと頭にかぶせると、ユリのやさしい香りが鼻をくすぐった。
「ほら、いつかミノタロウさんの臭い腕輪を頭に乗っけてたでしょ? あれよりかはマシなんじゃないかな」
「……ミーちゃん」
「えへへ……」
ミーちゃんは気恥ずかしそうに頬を搔いた。
「ちょっと柄じゃないかな……でもクーちゃんに似合うかなと思って……」
「…………」
胸が、締め付けられる。
ああ、たまらない……。
愛おしい……たまらなく愛おしいよ…………。
「ミーちゃん!」
「わぶっ!」
抱きついていっしょに花畑に倒れた。
「ミーちゃん! ミーちゃん!」
「も~、突然あぶないって」
「ほら、こうやってごろんごろんすればお花を着られるよ? ごろんごろん♪ ごろんごろん♪」
「ごろんごろんするのはいいけど、あたしにスリスリする必要はなくない?」
「えへへ♪ すりすり♪ すりすり♪ にゃ~ご♪」
「……はぁ、まったくもう」
ミーちゃんはやさしく微笑んで頭を撫でてくれた。
「……むぅ」
ベルちゃんはひとり口をとがらせて、
「わたくしもですわ! わたくしも仲間に入れてくださいまし!」
「わっ!?」
白い花びらが舞い散った。
ベルちゃんも抱きついてきたのだ。
「お姉さま! クンカクンカ! お姉さま! はあはあ!」
「あはは!」
「は~……たまにはこういうのも悪くないね~……」
山の向こうに日が沈み、雲が燃えている。
こうして花の中で寝そべっていると、まるでさめない夢をみている気分になる。
「……ん?」
キラキラキラキラ……
金色の光がわたしたちの周囲を飛び交っている。
まるでホタルみたいだ。
「なんだろう、これ?」
「お、お姉さま! あれを!」
ベルちゃんが指差す方に視線を移す。
広範囲というわけではないけど、この山頂以外の
「なぜ? お姉さまはなにもしていらっしゃらないのに」
「ん~……でも体がポカポカするから、もしかしたら知らないうちにスキルが発動したのかも」
「そうなのですか?」
「うん。たぶん」
「……あ~、なるほど。そういうことか」
ミーちゃんはひとりうなずいていた。
「ミミさん、なにがそういうことなんですの?」
「ん~、まあ確証はないんだけど、あたしたちが仲良くしてからかな、と思って」
「?」
「じゃあ、こうすればいいの?」
「わっ!?」
またミーちゃんに抱きついて、ユリの花畑に倒れ込む。
「ちゅっちゅっ! ちゅっちゅっ!」
「こ、こら! やりすぎ! やりすぎだってば!」
「浄化のためだも~ん♪ ミーちゃんだ~いすき♪」
「はぁ、まったくもう……」
「ごろごろ~♪ ごろごろ~♪」
ミーちゃんはまたやさしくわたしの頭を撫でてくれた。
「あ、髪にたくさん花びら付いちゃってる。ちょっと待ってね、取っちゃうから」
「えへ、えへへへへへ……」
キラキラキラキラ……
「……ホントですわね。浄化の光が舞っておりますわ……」
「どうしたの、ベルちゃん?」
「いえ、なんでもありませんわ。さ、そうとわかれば……とうっ!」
ベルちゃんがまた抱きついてきて、白い花が舞い散った。
「こんな素敵な機会を逃すわけにはまいりませんのよ!」
「うん! ベルちゃんもゴロゴロしよ~♪ ゴロゴロ~♪ ゴロゴロ~♪」
「ゴロゴロ~ですわ♪ ゴロゴロ~ですわ♪」
「はいはい。よしよし、よしよし」
結局その日は白いお花畑の中で眠った。
フルーチェさんとの決戦を前にして、最後の穏やかな時間だった。
(つづく)
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