第17話 むかしむかしあるところに…

 むかしむかしあるところに、『トン』『チン』『カン』という三匹の子豚がいました。


 ある日、家を追い出された三匹は、思い思いのおうちを作ります。

 トンはワラのおうち。


「農家のおやじからかっぱらってきてやったぜ。ヘッ! そのうちワラだけじゃなく家ごとかっぱらってやるぜ!」


 チンは木のおうち。


「お、俺、気が付いちゃったアニキ! 木って切れば家にできるんだよ!」


 カンはレンガのおうちです。


「お、おで、太ってるし、い、家にも耐久力がないと……」


 無事に家を建て終えた三匹は平穏な暮らしを手に入れました。

 ですが、刺激がなさすぎてすぐに飽きてしまいました。


「おい、あそこにクク頭巾っていう女の子が住んでるらしいぜ。食べたらきっとおいしいだろうなぁ!」

「ダ、ダメだよアニキ、お、女の子だよ?」

「お前はやさしすぎるぜカン」

「あ! アニキ! 俺、すごいこと気が付いちゃった!」

「なんだチン、言ってみろ」

「お、女の子って、食べたらおいしいんじゃないッスか!?」

「だからそう言ってるだろ!」


 とにもかくにも三匹はクク頭巾の家に向かいました。

 トントン、と戸をたたきます。


「はい、どなたですか?」


 中からかわいらしい声が聞こえてきました。

 トンはやさしい声音で訴えかけます。


「あ、お、俺たち、この近くに引っ越してきたトンチンカンっていう子豚なんだけど、引っ越しの挨拶にと思ってお菓子を持ってきたんだ。つまらないものだけど、よかったらもらってくれないかい?」


「まあ、子豚さんなんですね。つまらないものだなんて……。さあ、鍵はかかっていませんので入って来てください。わたしは体が弱くベットから起き上がれないのです」


 ほくそ笑むトン。

 作戦は大成功です。


「そうかい。そいじゃ遠慮なく」


 トンチンカンの三匹はウキウキしながら家の中に入りました。

 奥のベットには布団をかぶってクク頭巾が寝ています。


「やあ、こんにちはクク頭巾」

「…………」

「……?」


 大きな声で挨拶をしましたが返事がありません。

 三匹はさらにベットに近づきます。


(……なんだ?)


 トンは違和感を覚えて首をかしげました。

 クク頭巾は人間の女の子、にもかかわらず耳が大きく長いのです。


「ア、アニキ、なんが獣の匂いが……」


 カンは少し震えています。


「獣ぉ? んなわけあるか。じゃあ俺が聞いてやるよ」


 トンはまた優しい声音を偽って話しかけました。


「やあクク頭巾、クク頭巾の耳はずいぶんと長いんだね」

「……ええ、そうなんです。実は以前いた村ではエルフなのではないかといわれていました……」

「エルフ!」


 じゅるり、と舌なめずりをしました。

 美しく可憐なエルフとなれば、おいしくないはずがありません。


「……んん?」


 ですが、布団の隙間からのぞいた瞳はギラギラして見えました。

 エルフがこのような眼光をしているでしょうか。


「目が光っていて怖いんだけど、俺たち迷惑かい?」

「めっそうもない。あなたたちに来ていただけてすごく嬉しいんです」

「……手も、でかいな。エルフの手っていうのはこんなに大きいものなのか?」

「はい。そうでなければ獲物を捕らえることができませんから」

「獲物? エルフには似つかわしくない言葉だが……。じゃあその鋭い牙や大きな口も?」

「ええ……だって、口が大きくなければあなたたちを…………」

「俺たちを?」

「食べられないからだよ!」

「っ!?」


 ベットから飛び起きたクク頭巾を見て三匹は驚きました。

 なんと、クク頭巾だと思っていた人間はオオカミだったのです。


「あ! お、お前! 俺たちより先にクク頭巾を食べやがったな!?」

「ああそうとも! まったく、子豚まで転がり込んできてくれるたぁ今日はいい日だぜ!」

「おいお前ら! フォーメーションZだ!」


 ジリ……


 トンチンカンの三匹は臨戦態勢に入ります。

 彼らにも元野ブタの意地があります。

 ただで食べられるわけにはいきません。


「俺様と戦うってのか? ハッ! 子豚ごときがオオカミに勝てるとでも? いいぜ、お前ら切り刻んで豚汁にしてやるから覚悟し……なっ!? あっ! ぐっ! こ、これは……!? ま、まさかそんなことが……う、うごご……ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」


 突然オオカミは喉をおさえて絶叫しました。

 すると――


「ガオ~♪ オオカミさんのお洋服ふわふわ~♪」


 なんと、かわいらしい女の子がオオカミのおクチの中から顔をのぞかせたのです。


「「「……は?」」」


 トンチンカンの三匹はあまりの事態にぽかんとしてしまいました。

 オオカミは白目を剥き、泡を吹いて失神しています。

 これではオオカミを着ぐるみ代わりにしているようなものです。


「あ、三匹の子豚さん、引っ越しのご挨拶ありがとうございます♪ わたしはクク頭巾です♪ このお洋服どうですか? 似合いますか?」


 クク頭巾はよだれまみれになりながらもニコニコしています。

 よっぽど新しいお洋服がうれしいようです。


「ほら、どうですかトンチンカンの皆さん? ガオ~♪」

「そ、そ、それは……」

「それは?」

「それは、食われてるっていうんだよ! そこからすぐ出ろ!」

「出られません。 な、なぜなら着ていたお洋服はすべて溶けてしまったので……」

「……ゴクリ」


 一瞬、おクチの中を見たそうな顔をしたけど。

 三匹はいっせいに逃げ出しました。

 オオカミの体内に陣取るなど、とんでもない女の子です。


「宿主を喰らう寄生虫みてえな奴だな!」

「あ、アニキ! 俺、わかっちゃったかも!」

「は? なんだチン言ってみろ!」

「あ、あの子、オオカミに食べられちゃったんじゃないッスか!?」

「だーもう! だからそう言ってんだろ!」

「お、おで、あの子に食べられたい……」

「お前は黙ってろ!」


「待って~」


「げ!?」


 クク頭巾はオオカミに食べられたまま追いかけてきました。

 まるで、お洋服を着ているかのように。

 恐怖に駆られた三匹はそれぞれワラのおうち、木のおうち、レンガのおうちへ逃げ込みます。

 ですが為すすべなく、全てのおうちは一瞬にして粉々に破壊されてしまいました。


「はぁっ!? レンガの家は無事なんじゃないのかよ!?」


 トンはなにやら喚きちらしています。


「く、くそっ!」


 ついに三匹は川沿いに追い詰められてしまいました。


「どうして逃げるんですか? ほら見てください! オオカミさんのコスプレですよ、ガオ~♪」

「ち、近づくな! 俺たちの肉はマズイ! そう、マズイぞ!」

「あ、そういう遊びですか? わかりました!」


 クク頭巾はできるだけ怖い顔をして、オオカミの両腕を上げました。


「キヒヒヒヒヒヒヒ……! 三匹の悪い子豚め……!」


 ジリ……、と歩み寄ります。


「ウガー! 食べちゃうぞー!」


「だ、だから! お前が食べられてんだよ!」


 ――――――――

 ――――――

 ――――


「――っていう夢をみたんだ」

「えっ」

「えっ」

「…………」


 ミーちゃんは口を付けていたミルクのカップをテーブルに置いた。


「えっと……なにそれ?」


「だからね、夢」


(つづく)

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