第16話 神社のキツネのお姉さん(後編)
「あ、あ、あれが
ゴツゴツした岩山を進んで山頂にたどり着くと、
「こ、これは、はるか昔から稲荷村を護る大岩で、この地に力を与える存在なんです……」と瑠々ちゃん。「ほ、本来この地はちょっとやそっとの
「瑠々ちゃん、大岩さんを浄化すれば村の
「は、はい! この御神体さえ浄化されれば……!」
「…………」
おっきな大岩さんを見上げる。
大岩さんはずっと昔から村を護ってきたのだという。
「…………」
それほどに強い力を秘めているのに、
「ミーちゃん。これってあの、グ……グ……グ……グ……フルーチェさんの仕業だよね……」
「グレーチェね」
「グレーチェさん、いったいどうしてこんなことをするんだろう……」
「グレーチェっていうか、魔王の命令なんじゃない? あいつ、魔王軍の幹部なんだし」
「魔王……」
グレーチェさんの上司、魔王。
魔王さんって、いったいどんな人なんだろう……。
「……あれ?」
と、視界の端の、別の岩が動いたような気がした。
「?」
「お姉さま、どうされたのですか?」
「えっとね、岩が動いたような気がして……」
「それは御神体のことですの?」
「ううん、この岩だけど……あれぇ?」
ペタペタ触ってみてもなんの反応もない。
うん、
「お姉さま……少しお疲れなのでは?」
「おかしいなぁ……たしかに動いたような気がしたんだけど……」
もしかしたらベルちゃんの言う通り少し疲れちゃってるのかも。
「……ん?」
と、地面がかすかに震え、地鳴りのような音が響き始めた。
「な、なんだ?」
ミーちゃんたちも動揺している。
「瑠々、この辺りって地震多いの?」とミーちゃん。
「い、いえそんなことは……」
グラグラグラグラッ!
「わっ!?」
突然、地面がすさまじい勢いで揺れ始めた!
オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
岩だと思っていたものは突如として立ち上がり、声なき雄たけびを上げた。
こ、これは、
「ストーンゴーレムですわ!」とベルちゃん。
「わ、わたしが岩に触って怒っちゃったのかな!?」
「いえ、お姉さまの責任ではありませんの……ここを守護していたようですわね……」
「守護?」
「ええ、おそらくはあの吸血鬼の仕業……」
「……フルーチェさんの」
ストーンゴーレムさんは深い空洞の瞳でわたしたちを見つめている。
「ベル、ストーンゴーレムって強い?」
「そうですわね……。決して敵わない、ということもないと思いますわ」
「でも、村で見たゴーレムさんはすっごく強かったよ?」
「ゴーレムにも種類がありますの。お姉さまがわたくしを助けるために召喚してくださったのは大地から生まれたゴーレム……こいつは岩でできたストーンゴーレム、しょせんは吸血鬼が造ったまがいものに過ぎませんわ」
「へ~……」
「まあ、どっちみちやるしかなさそうだけどね……」
ミーちゃんがナイフを構える。
周りは断崖絶壁、道は塞がれ逃げるという選択肢は取れない。
瑠々ちゃんもベルちゃんもそれぞれ武器を構えた。
「先手必勝! いくよ!」
そして一目散にストーンゴーレムさんに飛びかかった!
「はあああああああっ!」
まずはミーちゃんの攻撃!
ギィン! ガギィン!
「っつ~!」
攻撃を終えてミーちゃんが距離を取る。
ナイフを持つ手がしびれてしまったみたい。
「ていていていていっ!」
続いて瑠々ちゃんの攻撃!
ボテッボテッボテッボテッ
「……うぅ」
お団子は硬い体に弾かれて地面に落ちてしまった。
後で食べさせてもらおう。
「わたくしも参りますわ!」
最後にベルちゃんの攻撃!
ドゴン!
「あ」
ガイコツ兵さんたちは踏みつぶされてしまった。
「……か、硬い」
ミーちゃんはストーンゴーレムさんを見上げて脂汗を浮かべている。
「尋常ならざる硬さですわね……」
「み、みたらし流忍術がまったく通じません……!」
「ベル、まがいものに過ぎないんじゃなかったの?」
「力を注いだあの吸血鬼が想像以上だったということですわね……」
「……なるほどね」
ストーンゴーレムさんがのっそりと首を動かしてわたしたちを見つめた。
「こんなに硬いの相手に、いったいどうすれば……」
ミーちゃんがつぶやいた。
みんな気圧されてしまっている。
「…………」
――時はきた。
出番だ!
「任せてミーちゃん!」
「え?」
「この名もなき巫女と妖刀・
「おお!」
「あ、あの、べつに妖刀じゃありません……」と瑠々ちゃん。
「…………」
太陽の光を受けてギラリと輝いた。
「……フ」
――カッコいい。
「いざ、参る!」
ストーンゴーレムさん目掛けて駆け出した。
「いっけー!」
「お姉さまなら一刀両断ですわ!」
「が、がんばってください!」
声援を背に受けながらジャンプ!
「はあああああああっ!!!!!」
青空高く舞い上がり、振り上げた刀を振り下ろす!
――決まった。
ゴイーン!
「…………」
手のしびれが全身に伝わり、ボテ、と地面に落ちてしまった。
「あ、あばば……」
「クーちゃんあぶない!」
間一髪、ミーちゃんに抱きかかえられてストーンゴーレムさんの踏みつけを回避することができた。
「あ、ありがとうミーちゃん……」
「クーちゃんの攻撃でも通じないの?」
「う、うん……体がしびれて元気が出ない……」
「いよいよ追い詰められたか……」
「で、でもね……まだ、本調子じゃないような気もする……」
「え? それって巫女さんの『お着換え』?」
「う、うん……巫女さん……剣……」
「……よし」
立ち上がるミーちゃん。
「じゃあわたしたちが時間を稼ぐから、とにかくクーちゃんは考えてみて!」
三人はまたいっせいに飛びかかった。
「……みんな」
必死に気を引いて戦ってくれている。
ストーンゴーレムさんの一発は重い、かするだけで致命傷になりかねない。
そんな恐怖の中、それでもわたしに託して必死に時間を稼いでくれている。
「早く……早くしなくちゃ……どうして、どうしてわたしは本調子じゃないって思うの……? どうして……どうし、て…………?」
違和感を覚える。
夜々さんは着せ替えっこのとき、なんと言っていた?
夜々さんはなにを履かないと、と言っていた?
「…………」
お股にあたたかみを感じる。
そう、あのとき夜々さんは――
「――っ!」
脳裏に閃光がほとばしった。
顔を上げ、大地を蹴り上げる!
「ベルちゃん! ベルちゃん!」
「お、お姉さま?」
「ハイッ!」
袴をたくし上げ、白衣を見せた。
「な、なんですのお姉さま? ……あ、も、もしかしてまたわたくしのパンツをお履きになるんですの? ですが、今は……」
「ちがうよ! ベルちゃんのパンツはいらないの! ちょっと袴を押さえてて!」
「……へ?」
「ああ、今回はそういう……」
ミーちゃんがチラリとこちらを見て苦笑した。
わたしはベルちゃんに手伝ってもらいながら、いそいで
「あ、そういえばパンツを履いていらしたのですわね」
「うん! 巫女さんはパンツを履いちゃダメなのすっかり忘れてた! はいこれパンツ!」
「お、お姉さまのパンツ!」
ふん! とベルちゃんは鼻息を荒くした。
「い、いえ、いけませんわ……履くなどと考えてはいけませんの……なくさないように大事にしまっておきませんと……」
そう言うとベルちゃんはパンツをかぶってしまった。
「――うん!」
あらためて
さっきとは全然ちがう。
刀からオーラがほとばしっている……これなら、いける!
「みんなありがとう! 離れて!」
一対一で対峙する。
ストーンゴーレムさんがズシン! ズシン! と迫ってくる。
みんなは固唾を呑んで見守っている。
「…………」
目をつむり、心を鎮める。
風が吹き抜けお股がスースーするけど気にしない。
だって、それこそが巫女さんなんだから!
「っ!」
カッ! と目を見開いた。
刀を
「スキル【居合斬り】!」
ズバッ!ズバッ!
「…………」
キン、と刀を
すると……
バラバラバラバラッ!
ストーンゴーレムさんは四つに分割されて崩れ落ちる。
「なっ!?」ミーちゃんが驚きの声をあげた。「あ、あの硬いストーンゴーレムがまるでサイコロステーキみたいに!?」
「まるでチーズですわね……チーズにナイフを通したときのようでしたわ……」
「る、瑠々は刀が
「我が剣は……天地と一つ……」
天に人差し指を突き上げ決めセリフを述べる。
ストーンゴーレムさんの気配が消え、岩に戻ったのがわかった。
「クーちゃん!」
みんなが笑顔で駆けてきた。
「さすがクーちゃん! さすクー!」
「お姉さまなら造作もないことだとこのベルは信じておりましたわ!」
「はい! 聖女様はすごいです!」
「ベルちゃん、わたしのパンツ持っててくれてありがとう」
「お、おおおおおおおおお姉さま! パンツはいかがいたしますの!? 履いてお帰りですの!?」
「う~ん……でもせっかく巫女さんなんだし、着替えるまではいいかな。ベルちゃん履いてもいいよ」
「なんと!?」ベルちゃんは大きく目を見開いた。「……いえ、このまま被っておりますわ」
「え?」
「いつかお姉さまのおパンツを自分の意思で履けるようになるまで、取っておきたいんですの……」
「?」
ベルちゃんはなんだか瞳をうるませているけど、わたしにはよくわからない。
「じゃ、浄化いっきまーす!」
その後、何事もなく大岩さんを浄化できた。
やっぱり大岩さんはすごい!
そして帰り際、気になったので聞いてみる。
「ねえ瑠々ちゃん。瑠々ちゃんも巫女さんやるときはパンツ履かないの?」
「……ふぇ!?」
瑠々ちゃんは少しうろたえる。
「あ、あの、えと、は、はい、まあ……」
「もしかして、忍者のときも?」
「に、忍者のときはさすがに履きますよ!」
「そっか、そうだよね。温泉のときは見えなかったし気になっちゃって」
「…………」
と、瑠々ちゃんは頬を赤らめてぽつりとつぶやいた。
「……ふんどしですけど」
「「「…………ふんどし!?」」」
(つづく)
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