第15話 ネグリジェ初体験(後編)
「いや~、ごめんごめん。まさか理性が吹き飛んじゃうとは。クマったクマだねぇ。あはは」
「…………」
正気に戻ったクマさんは和やかに笑う。
クマさんはわたしに飛びかかったと思ったら、急に、
「しずまれ……しずまれボクのマグナム……!」
と股間をおさえてうずくまってしまったのだ。
そしてしばらく待っていたら、スッキリしたみたいな顔で立ち上がった。
「あの~、結局なんだったんですか?」とミーちゃん。
「
「いやぁ、この娘があまりにもセクシーな格好してるものだから、クマの本能がうずいてしまってね……ほら、こう見えてボクもオスだから」
「……え、わたしの格好?」
「うん。そんなにスケスケじゃ誘ってるって思われても仕方ないよ?」
「……うっ」
カーッと顔が熱くなる。
そうだ、レイさんのネグリジェを着たままだったのだ。
下着姿でスケスケ、お胸だってうっすら見えてしまっていたことを忘れていた……。
ミーちゃん、ベルちゃんだけならまだしも。
クマさんにも、見られてしまったかもしれない……。
「は、はううっ!」
「あはは」
クマさんはあどけなく笑う。
恥ずかしさは消えないけど、でも、怖いクマさんではないみたい。
「あらためて、ボクはクマのクマー」とクマーさん。
「君たち、ここを通りたいんだよね?」
「あ、そ、そうです! でもこの岩があって通れなくて……!」
お胸に手を当てながら困りごとを話してみる。
「クーちゃん、この岩ね、いつもならクマ連合の皆さんが片付けるんだけど、皆さん
「あ、そ、そうなんですか?」
「うん、だけどかわいい君たちのためだ……、このくらいの岩ならボクがクマ肌脱ごう!」
クマーさんは、ぬん! と岩の前に立つ。
「ど、どうにかできるんですか?」
「ひとりでやるのは骨が折れるけどね。なぁに……ふんっ!」
「わっ!?」
ゴゴッ……ゴゴゴッ……!
おっきな岩が、少しずつ、少しずつ動いていく。
「すごい!」
「んぎぎぎぎぎぎぎっ!」
ゴゴッ……ズゴゴゴゴゴゴッ……!
ゴウンッ!
ゴロゴロゴロゴロッ……!
そしてクマーさんは岩を崖下に落としてしまった。
「はぁっ! はぁっ! ふぃ~っ!」
「ありがとうございますクマーさん!」
感動でおもわずヒシ、と抱きついてしまう。
もふもふ・ふかふかで、クマさんのぬいぐるみみたい!
「はは。そんなにくっつかれるとボクもいつまで耐えられるかわからないな」
「……はっ!?」
慌ててお胸をかくして距離を取ると、クマーさんは笑った。
抱き着いて、お、お胸も直に当たってしまった……、恥ずかしい……。
「なんて、冗談だよ」
「じょ、冗談ですか……? ほんとうに……?」
「これでもボクはクマ紳士で通っているんだ。女の子を傷つけるようなことはしないよ」
クマーさんは立ち上がって、
「じゃあ、ボクはここで。気を付けてね」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
「ん?」
クマーさんが振り返る。
「なんだい? やっぱり種の保存に協力してくれるのかい?」
「い、いえ……。クマの皆さんが苦しめられている
「
ドン! と胸を叩いて言った。
「
*
「げほっ! げほっ!」
「うぅ……ハチミツ……」
「みんな、大丈夫かい?」
クマーさんが、腐った木によりかかっている仲間のクマさんたちに駆け寄った。
クマーさんたちの集落は
「な、なんだよクマー、そんなにかわいい子たちを引き連れて……もう発情期なのか?」
「ちがうよ、この子たちはボクたちを治しにきてくれたんだ」
わたしたちを見て、
ちなみに幽霊のレイさんのお着換えはもう解いてしまった。
「お前、かわいい子の言うことだからってなんでも信じるなよ。またハチミツ詐欺にあうぞ」
「いや、それは……」
う~んと悩みだしてしまうクマーさん。
「ねえククリルちゃん。気持ちはうれしいし、信じないわけじゃないんだ。でも
「いえ、見ていてください!」
ス、と杖を構える。
「いきます! む~ん…………」
力をスティックの先端に集める。
そして、天に向けて解放する!
「アンリミテッド・ムーンシャワー!」
キラキラキラキラ……!
「……え? えええええっ!?」
クマさんたちは驚愕に目を見開いた。
わたしがスティックを天に突き上げると、クマ連合さんたちの
それどころか、土が、木々が、動物たちがモリモリ元気を取り戻していく。
「お、おお!」とクマさん。「ほら見ろよ俺のこの玉を! ハハッ! ひとつ失ったと思ってたのにふたつに戻ってやがるぜ!」
「お、おお!」とまた別のクマさん。「俺のはふにゃふにゃだったのに、びんびんに復活してやがる! これでまたオスとして生きていけるぞ!」
おおお! とそこかしこで歓声が上がる。
どれを聞いても、なにがどう治ったのかいまいちピンとこないけど……。
まあ元気になったみたいだし、いいのかな?
「ほ、ほんとうに治った……!」
クマーさんは目を見開いている。
「……す、すごいや! キミはサイコーだよ!」
「わっ!?」
ガシッと手をつかまれた。
「キ、キミはいったい何者なの!?」
「えっと、お、お着換えが好きなだけの市民です……」
「え?」
「あ~、一応そこはトップシークレットですので……すみません」とミーちゃん。
「ふふん! お姉さまにかかればこのくらいちょちょいのちょいですわ!」
クマーさんは首をかしげて仲間の皆さんの元へ駆けて行った。
「……でもミーちゃん、こんなところにまでフ、フ、フルーチェさんの魔の手は伸びてるんだね……」
「グレーチェね」とミーちゃん。「あれを見て」
ミーちゃんの指差した先、山向こうには
「クーちゃんが飛んでるあいだにクマーさんに聞いたんだけど、あそこに魔王軍の幹部がいるみたいで、そいつがこのあたりの元凶なんだって」
「……フルーチェさんだ」
ミーちゃんもうなずいた。
「だから、もしかしたらまたこの辺りも
「ミーちゃん、アリエス国へ向かう前にフルーチェさんをどうにかしなくっちゃ!」
「…………」
ミーちゃんは顎に手を当てて考えていたけど、
「正直、あいつにはもう会いたくないけど、そんなことも言っていられないよね……。よし、行くかー!」
「ミーちゃん!」
「クーちゃんさ、ちょっと聖女っぽくなってきたんじゃない?」
「え、そ、そうかな……?」
「うん、あたしは尊敬しちゃうな」
「え、えへへ……」
もしかしたらまたフルーチェさんにお洋服をもらえるかもって思ってたけど、それは黙っておこう……。
「ククリルちゃんすご~い!」
パチパチパチ、と拍手が響いた。
幽霊のレイさんだ。
「さすがは月の聖女様、カッコよかったよ~! 私、ククリルちゃんに取り憑くことができて一生の自慢になるな~!」
「ちょっと、軽々しく聖女とか言わないの」
「レイ、あなたはもう死んでいますのよ……」
「あ、あの! レイさん! あの!」
「ん~?」
「あの! またお着換えさせてください!」
「……え? ここで?」
こくこく! とうなずく。
「ん~……まあいっか! じゃあ服を脱いで」
「は、はい!」
大きな木に隠れて、バッバッと服を脱いでいく。
まだクマ―さんの集落だけど、お胸を隠しておけば大丈夫……。
それに、あのふわふわした感覚はほんとうにすごかった。
またレイさんにお着換えできるんだ!
ミーちゃんとベルちゃんは苦笑いを浮かべているけど、お着換えをしたい気持ちは止められないのだ。
ピカーッ!
パンツ一枚になってレイさんに飛び込むと、また世界がベールに包まれる。
合体成功! お着換え完了! 覚悟完了!
「ん……」
とレイさんはまた色っぽい声を出して身をくねらせた。
「お~い、みんな~!」
と、クマーさんが駆けてきた。
満面の笑みを浮かべているのが、ここからでもわかる。
「さっきボクの仲間が聞いたって言うんだけど、キミは月の聖女なのかい!? うわぁ! そんなすごい娘だったんだねキミは! みんなとてもうれしがってね、是非キミたちのために宴を開きたいってことに……なったんだけ……ど?」
「?」
クマーさんは突然立ち止まると、胸をギュッと押さえ始めた。
「はぁ……! はあ……!」
「ク、クマーさん……?」
「ぐっ……! はぁっ……!」
よだれを垂らし、今度は股間をきつく握り始める。
「ダ、ダメ、だ……に、逃げ……っ!」
「……え?」
「はぁっ……! はぁっ……!」
ハッとして見やると、クマーさんの後ろのクマさんたちもよだれを垂らしてわたしを見ていた。
その眼光は鋭く、まるで獲物を狙う猛獣の目だ。
「な、なんですの突然!?」
「あっ!?」とミーちゃん。「クーちゃん、その衣装!」
「……衣装?」
「スケスケなんだって! 丸見えなの!」
「……あっ!?」
そ、そうだ、お胸を隠すのを忘れていた……。
さっきだってこのお洋服のせいで正気を失っちゃったんだ。
クマ―さんは耐えられるかもだけど、連合の皆さんは……。
「グガアアアアアアッ!!!!」
ドドドドドドドドッ!
「わ~っ!」
一目散にクマ連合さんの集落を飛び出して逃げる。
「はぁっ! はぁっ! ま、まったく、なにが大丈夫ですのよあのクマーは! お姉さまに襲いかかるなど百億年早いですわ!」
「うぅ……宴……本場のはちみつミルク……」
「はぁっ! はぁっ! ていうかクーちゃん、お着換えして飛べるんだから空中に逃げてくれればよかったんじゃないの!?」
「……あ、そっか!」
(つづく)
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