第8話 お団子の忍者さん

「クーちゃん、またミノタロウさんの輪っか頭に付けたの?」

「うん。臭いけど、なんだか天使みたいに見えない?(● ●)」

「いや、鼻も開いたまんまだからさ……」


 腕を広げてくるくると回る。

 スカートをはためかせてみる。


 ――ああ、天使。

 わたしはかわいい天使。

 

「う~ん、天使っていうか制約ギアスかけられたサルにも見るけど……」

「えっ(● ●)」

「えっ」


「――ヘイヘイヘーイ」


 ガサガサ


 と、突然茂みから人が現れた。

 小さな男性、中くらいの男性、大きな男性の3人組だ。


「こいつら、野盗だ」とミーちゃん。

「そのとーり。トンスケ、チンロウ、カンタの野盗三兄弟ってね。ここらじゃ有名なんだぜ?」

「そのトンチンカンの方々がなんの御用ですか?(● ●)」

「合わせて略すんじゃねーよ! 野盗だって言ってんだろ! 身ぐるみ剥がしにきたんだよ!」


 ぞろぞろぞろ……。

 トンチンカンの皆さんはわたしたちを取り囲んだ。


「アニキ、数週間ぶりの獲物っスね」

「おう、よかったなチンロウ」

「い、生きるためなんだな……お、おどなしくしてほしいんだな……」

「お前はやさしすぎるぜカンタ」

「ま、そりゃこんなヤミーに染まった森じゃね」とミーちゃん。

「人も通らないもんね。野盗ってのも案外大変なんだね」

「お、わかってくれるか?」


 中くらいの男性(たぶんトンスケさん?)はミーちゃんと握手。


「……ハッ!? って、ちげーよ!」


 バッと距離を取った。


「さては俺たちを舐めてやがるな? こりゃちぃとばかし痛い目を見てもらわにゃならんようだな……おい、カンタ」

「え、ア、アニキ、女の子だよ?」

「ちぃとだよちぃと。このままだともっと痛い目見てもらわにゃならんことになるぞ?」

「わ、わがっだよ……」


 ぬぅ、と巨漢のカンタ?さんがやってきた。

 目の前に立つと本当に大きい。

 まるで山のようだ。


「ご、ごめんよぉ……」


 カンタさんの大きくて毛むくじゃらの手がわたしの腕をつかむ。


「どうだ、カンタの力はすごいだろう? なんたって村のちびっこスモー大会で準優勝した男だからな。これ以上痛い目にあいたくなけりゃおとなしく――えっ!?」


「ぐえっ!」


 ドシーン! とカンタさんを一本背負い。


「あ、ご、ごめんなさい!(● ●)」


 軽くいなしたつもりが、思った以上に強く入ってしまった。


「う~ん、力の加減が……(● ●)」


「な、なんでそんな力が!?」

「お、おで、投げられだのなんて生まれて始めでだ……」


 カンタさんはお尻をさすってトンスケさんのもとへ。


「お、おい! なんであんなほっそい腕にあんな力があるんだよ!?」

「あ! お、俺わかった! も、もしかして、アレなんじゃないッスかアニキ!」

「お、わかるのかチンロウ! なんだ言ってみろ!」

「あ、あいつ、もしかして力持ちなんじゃ……!」

「そんなん見りゃわかるだろ!」

「お、おで、なんか、クセになっちゃいそう……」

「お前は変なこと言うな!」


「ク、クセ?(● ●)」

「ぷっ、ぷぷっ……!」


 『怪力』のタネを知っているミーちゃんは笑いを噛み殺していた。


「とにかく、こいつぁマジでかからねぇとヤベェな……」


 ぞろぞろぞろ……。

 トンチンカンの皆さんはまたわたしたちを取り囲んで武器を構える。

 それぞれナイフ、弓、素手で戦う様子だ。


「…………」


 ジリ、と距離を詰めてくる。

 さっきまでとはちがう、本気になっている。


「クーちゃん、気を付けて」


 ミーちゃんも真剣にナイフを構える。


「いくぞ! トンチンカンのフォーメーション、Z!」


 おーっ! と掛け声が響いて一斉に飛びかかってきた。


「あっ!」


 キン! キン! カキーン!


「ちょっ、あたしひとりに三人!?」


 ミーちゃんがナイフで攻撃を受け流す。

 わたしを無視してミーちゃんに集中攻撃してきた。


「ミーちゃん!(● ●)」

「ちょ、タンマタンマ! 卑怯卑怯!」

「卑怯で結構俺たちゃ盗賊!」

「くっ、妙にラップ口調!」

「あ、ああ……(● ●)」


 わたしの『怪力』なら一網打尽にできたのに……!


「や、やあああああああっ!(● ●)」


 渾身の力で地面を蹴り上げた。

 ミーちゃんを助けなきゃ!


「ほいきた! カンタ!」

「うん!」

「……えっ!?」


 突然カンタさんが振り向きざまにパンチ!

 わたしはスピードに乗って止まれない!


「これぞ真の狙い、振り返れば奴がいる、だ!」

「ちょわっ!?(● ●)」

「クーちゃん!」


 ガチーン!


「あ」


 ビリビリと衝撃が走り、頭に付けていたミノタロウさんの腕輪が砕けてしまった。

 鼻の穴も元の大きさに戻ってしまった。


「あ、ああ、天使の輪っかが……」

「チッ、運のいい! カンタ、もう一発!」

「お、おで、殴るより、殴られたい……」

「いいからもう一発!」

「わ、わがっだよぉ」

「クーちゃん後ろっ!」

「っ!?」


 振り向くとおっきな拳が目の前に迫っていた。


 ――ダメ、よけられない。


「クーちゃああああああん!!!!」


 ヒュンッ!


「……え?」


 ブゥン! と大きな風切り音を残して拳は空を切った。


「あ、あで?」

「どうしたカンタ!?」

「今、なんが、とがったものが目の前を通っで、それを避けだら……」

「とがったものだぁ?」

「……あ、ほんとだ」


 見れば、地面にお団子が刺さっていた。


「わ、おいしそう! もぐもぐ……もぐもぐ……ん~、おいしい!」

「ク、クーちゃん、いくらなんでも食べるのはちょっと……」

「え? だってお団子だよ?」

「いや……うん、まあ、いいや……」


「だ、だだだだだだ団子だぁ!?」


 トンチンカンの皆さんは周囲を見回す。

 突然のお団子に動揺を隠せない。


「――そ、そこまでだっ!」


 シュタッ! と、今度は人影が目の前に降り立った。


「こ、これは!」


 目を疑ってしまった。


「ま、幻の! 忍者のお洋服!」


 間違いない、世界のファッションカタログで見た『忍者』のお洋服だ……!

 わたしの知ってるのより布面積が多いけど、めったにお目にかかれない代物らしい。


「月の聖女様には指一本触れさせないぞ!」

「なっ!? そ、その女は月の聖女だったのか!?」

「あ」

「あの~、誰だかわかりませんが、クーちゃんの正体についてはあんまり言わないでいただけますと……」

「あ、す、すみません……」


 シュンとしてしまった。


「じ~……」


 わたしは忍者さんを眺める。

 全身黒一色の布地に身を包んだ忍者さん、なんでも身を隠すためにこういうデザインになっているらしい。

 でも目の部分だけは空いていて、そこからかわいらしいお顔が見え隠れする。

 女の子だ。

 見えそうで見えない……その中身が見たい……そんな欲望に駆られてしまうミステリアスなお洋服、それが『忍者』だった。


 ピョコピョコ

 

 しかもなぜか狐さんのお耳まで付いてるし、お団子まで武器にしちゃうなんて……。


「ああ、いい……」

「……はい?」


「くそっ! 邪魔が入ったが月の聖女ってんなら金になりそうじゃねえか!」

「ア、アニキ! お、俺、すごいことわかっちゃったかも!」

「なんだチンロウ言ってみろ!」

「あ、あいつ! 月の教会からやってきたんじゃないッスか!?」

「だからそんなん今どうでもいいだろ!」

「お、おで、あの子に踏まれたい……」

「お前は黙ってろ!」


「…………」


 ジリ、と忍者さんがお団子を構える。


「くっ! 忍者がなんぼのもんよ! いくぞ!」


 おーっ! とまたしても襲いかかるお三方。


「やっ!」

「おわっ!?」とチンロウさん。


 カーン! と構えた弓がお団子に弾き飛ばされたのだ。


「ふっ!」

「あでっ!」とカンタさん。

 

 ドシーン! と地面に激突。目にも留まらぬ速さで足払いされてしまったのだ。

 スカカカカカン! とカンタさんを型取るようにお団子を突き刺していく。

 「動いたらどうなるかわかってるだろうな?」という脅迫めいた串刺しだ。

 最後にドン! と背中に足を乗せて、


「さあ、お、お、お前で最後だっ!」


「カ、カッコいい……」


 思わず声が漏れた。


「い、いい……」


 なぜか足蹴にされているカンタさんも恍惚こうこつの表情を浮かべている。


「な、舐めんなよ!」


 最後の相手、トンスケさんがナイフを構える。


「…………」

「…………」


 緊迫した空気の中、トンスケさんが仕掛けた。


「おらぁっ! ……って、あ、あれ!?」

「にに忍法、ナ、ナイフに団子の術っ!」


 繰り出したナイフに、お団子の玉が3つ突き刺さっていた。


「なっ!?」


 勝負あり。

 背後からお団子の串を首筋に当てた。


「こ、こ、これ以上続けたらどうなるか、わ、わかるな?」

「ぐううううっ!」


 その一言でトンスケさんは戦意喪失、


「お、覚えてろよ!」


 お三方は森の中へ消えていった。


「……やった」


 忍者さんは小さくガッツポーズ。

 狐さんのお耳がピョコピョコ動いてうれしそうだ。

 もしかしてあれは本物なのかもしれない。


「いや~、すっごい強いね! 助かったよ!」とミーちゃん。

「あ、い、いえ、る、瑠々るるなんてそんなっ……」

瑠々るる? 瑠々るるっていうの?」

「あ、は、はい。そ、そうですけ、ど……」

「?」


 ミーちゃんは首をかしげる。


「なんで目を合わせてくれないの?」

「あ、あの、そ、それは……え、えっと……」

「ん?」

「あ、あのっ! じ、じ、実は、瑠々はっ……!」


 瑠々ちゃんがこっちを見た。

 その瞳はうるんでいる。


「る、瑠々は、聖女様にっ……!」

「そのお洋服、脱いでください」

「……え?」

「お洋服、脱いでください!」

「せ、聖女様?」

「あちゃあ……」


 ミーちゃんが顔に手を当ててやれやれとしている。

 でもわたしはこの気持ちを止められない!


「ダメですか? 脱げませんか?」

「ど、どうしてですかっ!?」

「どうしてもこうしてもありません」

「きゃあっ!」

「メッ!」


 ミーちゃんにパシーンと手をはたかれた。

 思わず手が伸びてしまっていた。


「ハッ!?」

「YESお着替え・NOタッチ、でしょ?」

「そ、そうでした……」

「う、うう……ううううっ……」

「……瑠々ちゃん?」

「お、お話ししたかっただけなのにぃいいいうわあああっ!」


 シュバ!


「あ」


 思わず声が漏れた。

 木々を飛び飛び去っていってしまった。


「ああ……行っちゃった」

「クーちゃん、気持ちはわかるけどもうちょっと抑えよ?」

「う、うん……ごめんね瑠々ちゃん、それと、ありがとう……」


 もう見えなくなってしまった背中に、謝罪と感謝を伝える。


「…………」


 それにしてもあのお洋服、どこで手に入れられるんだろう……。


(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る