第10話エピローグ&あとがき
明けて翌日、二日酔いの頭痛を我慢しながら葉子が会社の廊下を歩いていた。
ふらついた足取りで廊下の突き当りのT字路まで来ると、葉子にとっては良く見知ったスーツを身に纏う男性と出会う。
「あっ先輩、おはようございます」
「あぁ、おはよう。……ちょっと具合悪そうだね?」
すらりとした長身でスーツを着こなすその男性は、葉子より頭一つ分上の目線から心配そうに後輩の顔を覗き込んだ。
「昨日飲みすぎちゃったみたいで、途中から記憶が無くて……」
頭をさすりながら苦笑いする葉子。
昨夜の出来事の影響を感じさせない、多少体調が悪そうではあるがいつも通りの様子。
「お酒弱いのに珍しくかなり飲んでたね」
「私、何か変な事してませんでした?」
「特に何も無かったよ。かなりはしゃいでたけどね」
「嫌だー、恥ずかしい。何か知らない内にちょっと腕ケガしてたし」
みるみる顔が赤くなり、両頬を手で押さえながら俯く。その様子をみた先輩は、
「大丈夫だって」
葉子の肩を軽く叩きながら笑いかける。
「んー、だったらいいですけど……」
「さ、今日も仕事やろう。日本の本社に帰るまでもうあとちょっとだ」
「そうですね、二日酔いで頭ガンガンですけど今日も頑張ります」
顔色はいつもより幾分良くないが、笑顔を見せ両手のこぶしをぎゅっと握る葉子。
「俺ちょっと総務の方に用事あるから先に行ってて。あ、本当に具合悪かったら無理するなよ」
「はーい」
葉子が立ち去るのを見届けてから踵を返すと、いつの間にか気配を全くさせずに梨紗が廊下の壁に背を預けて立っていた。
「葉子ちゃん、昨日の事は何も覚えてないみたいですね」
「良かった良かった」
お互い目を合わせず、あさっての方を見ながらやり取りする。
「良かったですね。先代に教えてもらったって言うあの催眠術みたいなの様様って感じですか?」
「まあね、でも昨日はちょっと焦った」
「通報の事ですか?それとも葉子ちゃんが狙われた方?」
「どっちもかな」
「まぁ確かに私も葉子ちゃんが拐われたと情報が入った時は肝が冷えました。クイーンが即時出動できて組織としても助かりました」
「昨日はなーんか妙な胸騒ぎがしてたから念のためお酒飲まなかったのよ。おかげで葉子ちゃんという有能な同僚を失う、なんて事にならなくて済んだ」
「有能な同僚、というだけですか?」
梨紗の含みのある言い方に、初めて目を合わせて向かい合う。
「……さっきから、何か勘違いしてないか?梨沙君」
「あんまり任務に私情を挟んでると、キングにどやされますよ?」
ニヤリとする梨紗に男は些か呆れたような表情を見せ、
「挟んでない」
「昨日は途中でこちらが引き継いで気絶してる葉子ちゃんの敗れた服の着替えとか処分は私がやりましたが、それも本当はやりたかったんじゃ?」
「……君は頭の中がピンク色過ぎるな。あ、そうそうジャックに連絡しといて。あの人たしか手先が器用で細かい改造とか得意だったろ?マスクの通気性を改善してほしいって伝えといて」
話題を無理矢理打ち切って話を変える。
「わかりました。この辺にしときますね」
「じゃ、お互い今日の仕事に向かおう」
「はい」
それぞれ反対方向へ別れ、梨紗は葉子の後を追うように、男は背を向け歩き出す。
梨紗の足音が十分に離れたのを察してから、
「あの組織への恩返しが終わるまでは、恋愛なんてしてられないさ」
誰にも聞こえない小さな声で呟き、男は力強く廊下を踏みしめた。
◇
あとがき
これにてこの物語は終わりとなります。いかがでしたでしょうか?なんだか男性向け薄い本展開に見せかけてからの女性向け薄い本展開みたいな流れになってしまいましたが。絵面が汚いせいでそんな風には見えない?
この話は、人生で初めてちゃんとした(?)物語として小説を書いた、まさに処女作です。この小説を読んでくれた方は全員実質私の処女を貰った、ということになります。
上手い下手、面白いつまらないはともかく、習作といえるような物ですが短いながらもちゃんと完結までいけたというのは達成感があります。
初めて書くのになぜこんなに変態的なキャラになったのか、これはあるお気に入り漫画の主人公にインスパイアされて「力を振り回して好き勝手に性暴力をやる悪党を、それをさらに上回る強大な力で同じ目に遭わせて懲らしめるヒーロー物ってどうだろうか」という思い付き一発から生まれました。当初はもっと直接的でコメディ調なイメージだったんですが扱うテーマがテーマだけに書いてるうちにあまりふざけられず割とリアル(?)寄りな話になりました。
人生でこんなに「悪漢」という文字を入力したのは、回数は数えてませんが後にも先にもこれっきりでしょう。
もしかしたら続きやおまけを書きたくなる事があるかもしれませんが、ひとまずエピローグ&あとがきまで読んで頂きありがとうございます。
作者的には自分で書いてて「面白いのか?コレ」と思いながらの執筆でしたが、どうであれ読んで頂いた方の一服の娯楽になっていれば幸いです。
クイーンマスク! ~悪党にせいなる裁きを~ 猫燕 @nekotsubame
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます