失恋人間の殴り書き

@nemurihime22

第1話 1日目

 変化が嫌いだ。人との別れを経験するたびに、自分は大人には程遠いと思ってしまう。できれば何も変わらないでほしい。誰も離れて行かないでほしい。寂しい。悲しい。しかし人間ほど変化を好む生物もいないようで、私はいつも取り残されてしまう。いつも迷子だ。


 二日前、三ヶ月付き合った彼氏と別れた。たった三ヶ月、私と彼の間に心が通い合う瞬間はあったのだろうか。出会って七年目の七夕。まさか今まで一度も願いを込めてこなかった短冊にここまで縋りたいと思う日が来るなんて。とりあえず、今日の夕飯は何にしようか。最近暑くてあまり食欲がない。実家暮らしでご飯は出てくるものの、引きこもりだと朝も昼もない。そもそも起きるのは夕方で、夜は二駅先のガールズバーで働いているため、家族と顔を合わせる時間はほぼない。寂しい。アイスにしようか。コンビニ弁当はもう食べたくない。あの不健康そうな味が、自分と重なる。見栄えだけはいい、味も別に普通。傘増しと添加物の塊。中身が何か汚いものでできている私と一緒な気がする。

 一方的に振られたからといって、彼が悪いとは毛頭思えなかった。この六年間、私は彼のおかげでなんとか生きていられたし、つらい時はいつも一緒にいてくれた。むしろよく一緒にいてくれたなとさえ思う。すごく傷ついたと思う。でももう会うことはないので、どうか幸せに、自分の人生を生きてくれたらそれでいい。しかしどうして、私はこの人と結婚する直感があるのだ。別れたのにも関わらず、我ながら気持ち悪いとは思う。いつかどこかで再会したら、この物語も少しは面白味が増すかもしれない。それは漫画の読み過ぎか。


 こんなものを書いているから、いつまで経っても会いたくなるのだろう。どうかしている。そもそも七夕の夜に、二十歳も過ぎた女が夜道を泣きながら歩いていたのはどうかと思う。家に着くまで電話切らないでいてくれてありがとう。あぁ、本当にどうかしている。やっぱりアイスにしようかな。ウーバーイーツで頼むにも、家の周りに店がなければ意味がない。失恋をしても腹は減る。食欲がないだけで。冷凍庫からアイスを持ち出す。コンビニには行きたくない。ここにはたくさんの染み付いた思い出がある。一人暮らしでも始めようかな。とりあえず禁煙しなきゃな。あー、タバコ吸ってる時のあいつ、カッコよかったな。こんなんじゃちっとも前に進めない。でも前よりは平気かも。もうわかんない。今は会いたいしか浮かばない。

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