第329話 仇

「......私だと気づいていたのか」

 マロン姫は意外そうな顔をしてザックス王子のことを見た。

「10年前に滅びたヨク王国の唯一の生き残りの王族......まさかあなたとこんなところでお会いできるとは」

 ザックス王子は手をマロン姫に伸ばしたが、マロン姫はその手を振り払った。

「触るな! 偽善の仮面をかぶった血塗られた王族が!」

「そうですぞ! 穢れなき乙女の姫様に触ろうなどとは不届きです! え? なぜ穢れなき乙女かって......それはもちろん処......」

 鳥面の男がマロン姫の前に出て演説を始めたが、最後まで言い終わる前に鳥面の男は地面に顔を埋められ口をふさがれてしまった。

「何を......言っているのですか?」

 ザックス王子は冷汗を流しながら尋ねた。

「まさか......聞かされていないのか? 読者の人にも説明した方がいいだろうし、仕方がないから教えてやる......お前たちが何をしたのかをな!」

 マロン姫はザックス王子に指を突き付けた。

 ......相変わらずこの小説の登場人物は読者への配慮してもらえるのは助かるけどさ、それなら殺す相手のザックス王子にも多少は情けをかけてあげてもいいんじゃないかな?

 僕の心の声が聞こえるわけもなくマロン姫は話を始める。

「10年前、お前の姉は私の国と停戦協定を破り、私の父を......母を......そして姉を皆殺しにするよう命じた張本人だ!」

 あのカレンさんがそんなことをしたなんて信じられない。でも、マロン姫も嘘をついているようには見えないし......

「アイネ姫、おそらくマロン姫が言ったことは事実でしょう。姉上はいつもうわごとのように『私はあの日どうしてあんなことをしてしまったんだろう』と言っているのを聞いたことがあります。10年前のあの日以来、姉上の様子がおかしくなったのも合点がいきました」

 ザックス王子にも心当たりがある!? え? じゃあ、ザックス王子は殺されるほど恨まれても仕方ないじゃん......

「姫様、バカ......回収してきました」

 棒付きキャンディーを口にくわえた少女がボロボロ布のやつとスザクを肩に抱えて現れた。

 新キャラのバーゲンセールかよ......次から次へと新しいキャラが出てくると僕が覚えきれないじゃないか!

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