第324話 だって間抜けだもの!

 隣に居るザックス王子も何が起きたのか理解できずに呆然としているようだ。

「私、この人をどこか横になれるところに運びます。ザックス殿下どこかベッドを借りてもよろしいでしょうか」

 クロワが手を挙げてアピールをした。しかし、ザックス王子は呆然と様子のおかしいメイドを眺めている。

「あの......ザックス殿下? どうかしましたか?」

 クロワがザックス王子に近づいて声をかける。すると我に返ったようにザックス王子はクロワのことを見た。

「あ、ああ......そうですね。この廊下の突き当りの部屋にベッドがあるので連れて行ってもらえますか?」

「はい! かしこまりました!」

 クロワはザックス王子に教えてもらった部屋に様子のおかしかったメイドをおぶさって連れて行った。

「ザックス王子、どうかしたの?」

 僕は珍しく男に対して優しい言葉をかけた。

 いやいや! 珍しくは余計だろ!! 男に対しても優しく......したことはほとんどないかもしれないけどさ!

「いえ......先ほどのメイドですが様子がおかしかったので」

 ザックス王子は考えるようなそぶりを見せながら答える。

 ......っていうかナイフを取り出した時点でおかしいのは見ればわかるでしょ? と突っ込みたいがザックス王子も困惑していることだろうし今日のところは見逃してあげよう。

凜風リンファ、彼女の話し方、素振り......明らかに今朝の様子と違いますよね?」

「はい。ザックス殿下のおっしゃる通りですアル。そうですアルね......例えるならまるでようでしたアルね」

 凜風リンファの言葉に何か引っかかるものを感じた。そう......『意識を乗っ取る』という言葉に。

 うーん。最近どこかでそんな話があったような......はっ!? そうだトメ! トメの能力だ! だが待て! だとしたら間抜けにもこの近くに居るはずだ! え? 何でそんなことが分かるのかって? だって間抜けだもの!

 僕は周りをきょろきょろ見渡すが人影は見えない。

「アイネ様、おトイレならこっちの通路を10メートル進んだ先を右に曲がるとありますアル」

 凜風リンファは指をさしながら、僕の耳元でそう教えてくれた。

 いや......トイレは探してないんだけど? 凜風リンファも優秀だけどメイド長のように以心伝心というわけにもいかないものだね。

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