第315話 アイデンティティを揺るがす存在

「お待たせしましたアル」

 お団子メイドが料理を僕たちの前に並べる。カレンさんはお寿司を知っていたみたいだけど、お寿司以外にいったいどんな料理が出るのだろうか。

 目の前に置かれた入れ物の蓋をお団子メイドが開けると湯気が立ち上る。湯気のせいで何かはよく見えないが豚肉蒸したいい匂いがほんのり立ちこめて食欲をそそる。次第に湯気も消えてこの匂いの正体があらわに......

「......ってこれ焼売しゅうまいじゃないかよ!」

 日本食じゃなくて中華料理かよ!! いやまあ......このお団子メイドが用意しているから絵的にはこっちの方が合っているんだけど!!

「アイネ姫様は焼売しゅうまいをご存じだったアルか。私が作った焼売しゅうまいは絶品アルよ」

 どうやらこのお団子メイドは料理の腕に自信があるようだ。しかし、リーゼントに見せた攻撃からしてこのメイドは戦闘能力は高いだろう。料理の配膳も当家のメイドに引けを取らない素早さだったのでメイドとしても優秀と見た。その上料理までできるはずが......

 僕は焼売しゅうまいを一つ口に入れる。

「こ、これは!? 噛んだ瞬間に肉の旨みとタマネギの旨みが絶妙なバランスで口の中にいっぱい広がってくる!」

 はっ!? ついグルメ小説じゃないのに料理の感想を言ってしまった。しかし、これは別の意味でマズいよ......アスカの唯一のアイデンティティである料理ができるところが霞んでしまう新キャラの登場ということになるじゃないか!

「気に行っていただけたようで嬉しいですアル」

 お団子メイド......いや、こんな素晴らしい料理を出してくれる相手に対してこの呼び方は失礼か。

「お嬢さん、お名前を教えてもらえるかな?」

「私の名前アルか? 凜風リンファアル」

 凜風リンファは不意をつかれてきょとんとした表情を見せた後、スカートをたくし上げて一礼した。

「お口合ったようでなによりです。凜風リンファ、もっと料理を持ってきてもらえないか?」

 ザックス王子は嬉しそうに微笑んだ。

「はい、すぐに用意しますアル」

 この後、凜風リンファの作った中華料理をお腹いっぱい食べたのだった......あれ? お寿司の件は?

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