第306話 絶望の幕開け

 タマは僕の肩を叩いてアーロンの方を指差した。

 そうか......声が聞こえなくてもアーロンに直接触ればこっちに気づくはず。

「(へぶっ......いててて......って声でないんだった!)」

 僕はアーロンの方に向かおうとしたところで見えない壁にぶつかったのだ。その様子を見ていたタマは先ほど壁を壊したときのように蹴りを入れたが、今度の壁は堅いのか破壊できないようだ。

「そうですね。殺しちまいましょう。今生き残っている奴らを皆殺しにしましょう!」

 少女に銃を向けた男はそう言うと、引き金を引いてまずはその少女の頭を撃ちぬいた。少女はゆっくりと地面に倒れた。

「な、なぜなんだ......」

 アーロンは少女に駆け寄り、触ることができない少女の遺体を触ろうとする。しかし、この世界に干渉できなくなってしまったアーロンの手はすり抜けて地面に触れただけだった。

「いやああ! 死にたくないよ!」

 その少女が撃たれたのを見て別の少女が泣きじゃくった。

「うるさいガキだな。次はこいつの番にするか」

 その少女のそばに居た男が銃を向けた。

「やめろ!!」

 アーロンはその男に体当たりをしようとしたがすり抜けて、勢いあまって地面に倒れ込んだ。

「やめてくれよ......」

 アーロンは少女に手を伸ばしたが、無慈悲な銃声の後に少女の遺体が地面に転がるだけだった。

 その後、起きたことは言うまでもなく老若男女すべての街の住民が殺されていったのだ。

「うわぁああああ!!」

 アーロンは地面に座りこみ頭を抱えて叫んだ。

「よし......そろそろ時間切れだな。ショータイムはここからだぜ......」

 ボロボロ布のやつがまたもや僕らのそばに現れて、指を鳴らすと一気に景色が変わる。


 目を見開くと僕は馬車の中に居た。つまり元の場所に戻ったのだった。

「はっ! しゃべれる! よかった......」

 これで心おきなく突っ込みができるってもんだ。記憶の世界じゃ干渉できなくされたり、しゃべれなくさせられたりで大変だったもんね。え? 一番大変なのはそこじゃないだろって?

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