第304話 今更手遅れだと思うよ

「よーし。こいつの記憶はここで終わりだな。それじゃあ......って何でお前らまだ居たの!?」

 ボロボロ布のやつが驚いたような表情で再登場。意外にもやつの方から現れてくれるとは思わなかったよ。

「殺ってしまうにゃ!」

 タマは懐からナイフを取り出すとすさまじい速度でボロボロ布のやつに近づいた。

「おっと、今はお前たちの相手をするわけにはいかないんだ」

 ボロボロ布のやつは手を前に差し出すとタマが何もない場所で倒れ込んだ。

「タマ! どうしたの!? つまずいて転んだの? こんなシリアス展開の場面でボケ演技はしなくていいからね!」

「そんなことしてるつもりはないにゃ!! 目の前に透明な壁みたいなものがあるのにゃ!」

 タマは目の前に何かあるかのようにぺたぺたと触り、透明な壁があるかのように壁伝いに歩き始めた。

「無駄だ! こちらには近づけない! お前らはそこで今からオレがやることを眺めてな!」

 ボロボロ布のやつはそう言ってアーロンの死体に近づき頭を触って何かを呟いた。

「この壁ぶっ壊すにゃ!!」

 そう言ってタマは思いっきり蹴りを入れると何と壁を破壊できたのか中に入れたのだ。

「......って壁壊れるのかよ!! それなら最初から壊せばよかったじゃん! ......って誰も聞いてないし!!」

 タマはボロボロ布を殺すことに集中して、ボロボロ布は今の状況に焦っていて2人とも聞いていないのだ。

 馬鹿みたいに1人突っ込みして少し恥ずかしいな......

「あ、やべ......壁の強度こんなにもろかったのかよ。ま、オレはやることやったし逃げさせてもらう」

 そう言ってボロボロ布のやつは姿をまた消してしまった。

「チッ! もうちょっとだったのに間に合わなかったのにゃ......」

 タマは舌打ちをして悔しそうな表情を浮かべる。

「オレは......確かここで死んで......」

 声の方を見るとアーロンが立ち上がって、自分のこめかみを手で触って血が出ていないことを確認していた。

「おはよう。アーロン君、この後この世界でどんな風になった知りたくはないのかね?」

 ボロボロ布の声が聞こえる。天の声的な感じでしゃべっているようで姿はないようだ。

「......というか今更知的キャラっぽくしゃべっても手遅れだからね?」

 僕は呆れたように呟いた。

「誰だ? どこに居る?」

 アーロンは周りを見回しながら言った。

「私は神だ。どこに居るか......強いて言うなら神の世界かな?」

 ボロボロ布のやつの声が響く。

「おーい! 僕の発言は無視かよ!!」

 僕の叫びは虚しくタマに呆れたような顔で見られるだけだった。

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