第298話 受け入れて前に進むこと

 少女を手に抱えた男は医師と思われる男や看護師の女に説得を受けた。そして数時間後にその少女の死を受け入れ少し離れた瓦礫の上に座った。

「ねえ、タマ。あの人に話しかけてみようよ。もしあの場に居た人の転生者なら僕らのこと知っているかもしれないし」

「ダメにゃ......さっきのボロボロ布のやつに私たちがこの世界に干渉できなくしたようなんだにゃ」

 そう言ってタマは周りの人に触ろうと手を前に差し出したがすり抜けたのだった。

「そんなのタマの力で何とかできるでしょ?」

「できないにゃ」

「えぇ......? 意外とタマの能力って役に立たないんだね」

「さっきから人に頼ってばかりのくせに文句を言うんじゃないにゃ!!」

 タマに怒られてしまった。とりあえずタマのご機嫌取りの意味も込めて「ごめん! ごめん!」と謝っておいた。

「全く......しょうがないやつにゃ。それよりあれを見るにゃ。さっきの男が誰かと話しているにゃ」

 タマはさっきまで少女をえていた男を指差した。簡易なものではあるがお墓が作られているところを見ると少女の遺体はもう埋められた後のようだ。

「アーロン、お前これからどうするんだ?」

 杖をついて白髪交じりの男が先ほどまで少女を抱えていた男に話しかけた。どうやら男の名前はアーロンと言うらしい。

「今度こそ戦争を終わらせる。オレの娘......マロンと同じ思いをさせたくないんだ」

「そうか......お前がそう言ってくれると頼もしい。この街の兵士はもうほとんど死んだ。残っている強力な兵士はアーロン、お前くらいしかいないのだ......」

 白髪交じりの男はそう言って立ち去った。

「敵襲! 敵襲! 南西方向に約1000人の敵が接近中!!」

 放送で敵の襲撃を告げる声が街の中に響く。

「ママ......私たち死んじゃうの?」

 小さな少女は隣に居る女性の服を弱々しく握りしめながら尋ねた。女性はただ涙を流すだけで少女の質問に答えることはなかった。

「大丈夫だよ。オレが必ず守るから」

 アーロンは少女の頭に優しく手を当てると武器を手に取り南西の方に向かうのだった。

「......あのさ、僕たちついて行ったら殺されたりしないかな? やっぱり着いて行くの止めない?」

「はぁ......ビビりすぎにゃ! さっきも言ったけどにゃ、この世界に干渉できなくなったのにゃ。私たちが殺されることもないから安心するにゃ」

 タマが僕を少し小馬鹿にしたような顔で見る。

 読者のみんなも僕を馬鹿にしないでくれよ。死ぬのは誰だって怖いんだからね!!

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