第258話 喧嘩は止まらない

 どうしよう......目を閉じたままじゃこっちも動けないぞ。しかも、乗っ取る能力ってことはこの喧嘩の原因の発端を作っただけだから、トメを止めただけじゃ解決したことにはならないぞ。

 パンパンと手を叩くような音が聞こえる。

「みんな仲良くしなきゃダメよ!」

 シャーリーさんの声がきこえると気のないような「はーい」というパーティー参加者たちの声が聞こえた。ついでに僕の目の前に居るトメの声も......

 僕は瞬きをしてトメの様子を一瞬だけ見る。先ほどまでの覇気が感じられずほほんとした顔をしていた。

 もう一度僕を含めて誰かの意識を乗っ取るつもりはなさそうだね......

 僕はゆっくりと目を見開いた。

「これは......どういうこと?」

 辺りを見渡すと他のパーティー参加者もトメ同様にのほほんとした顔をしていたのだ

 まさかもう1人の異世界転移者はシャーリーさん!? 一体どんな能力を使ったんだろうか......そもそも能力なのか? やっぱり僕の考えすぎで異世界転移者じゃないのか? 難しいことは後で考えよう。とりあえず助かってよかった......

 周りに居たメイドたちも安堵の表情を浮かべる。

「アイネちゃん、大丈夫だった? みんな急にどうしたのかしらね」

 僕の様子を気にしてくれたのかシャーリーさんが近づいてきた。

「うん。すぐ収まったし大丈夫だったよ」

 僕の返事を聞いた後シャーリーさんは僕の耳元に口を近づけて小声で呟く。

「私のミンナナカヨクの能力でみんなから敵意や悪意をなくしたからしばらくの間は喧嘩することもないわ」

 実に分かりやすい能力名ですね、シャーリーさん!!

 今度は僕がシャーリーさんの耳元に口を近づけ......やっぱ無理! 身長が足りないから!

 ......と思ったが意図を察してくれたのかシャーリーさんはしゃがんで耳を近づけてくれた。

「シャーリーさんも異世界転移者だったの?」

 僕の質問に対して、シャーリーさんは僕の耳元に口を近づけて答える。

「そうよ。タマちゃんが『これからここで喧嘩が始まるからシャーリー様の異世界転移特典の能力で止めてあげるにゃ。シャーリー様と同じ異世界転移者のアイネ姫を助けて欲しいのにゃ』って言ってたのよ」

 あの猫娘(タマのこと)、こうなるのを知ってて僕に教えなかったんじゃないだろうね!!

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