第235話 買収して欲しい理由

「こ、これは失礼しました。どうか......どうかお許しを!! 何なら靴も舐めますんで!!」

 トリュフは頭を何度も地面にこすりつけていた。

 おっと......もしかして無限ループに入ったのかな? ......いやいや感心している場合じゃなくて。

「だから靴を舐めるのはしなくていいんですけど......」

 僕は呆れたようにそう返した。

「そうですか......」

 トリュフは残念そうな顔をして......ってなんで残念そうな顔をしてんだよ!! 舐めたかったの!? 舐めたかったのか!?

「時ににアイネ姫様......マスカットはお好きですか? よろしければこちらをどうぞ」

 トリュフはお皿にのせたマスカットを差し出した。

「どちらかと言えば......好きかな」

 僕は差し出された皿を受け取り、1つぶもぎ取って口に含んだ。

「うん。おいしい」

「おお! それはよかった!! 時にアイネ姫様......」

 トリュフがまた『時に』って言ったよ......『時に』って今思いついたのだけどって意味だからね! そんなにスラスラ思いつくなんて不自然だよ!!

「私の国はマスカットが名産なのですが私の国はお買い得だとは思いませんか?」

 ト、トリュフが自ら自分の国を売りに差し出してきた!? 何か裏があるとしか思えないんだけど?

「姫様、お答えしましょう。トリュフ様は姫様の国の爵位が欲しいためだと思います」

 メイド長が僕が質問する前に答えた。

「爵位? ということはつまり僕の国の貴族になるってこと?」

「はい。その通りでございます。通常の買収の場合は買収された側は王位を捨てる代わりに爵位を得ます。土地自体の所有権は買収された側のままになりますので、具体的にはこの土地の領主になります」

 なるほど......王位より僕の国の爵位が欲しいって訳か......あれ? でも王位から爵位だとランクダウンしてるよね?

「お願いします! アイネ姫様! もうこの国は衰退していって私じゃどうあがいても立て直せないんですよ!! このままじゃ国が崩壊するのも時間の問題なので買ってくださいよ!! うぉおおんおん!!」

 トリュフはものすごい勢いで涙を流していた。

 つまりこのままじゃ王位すら無くしてしまうから買収して欲しいと......というかこのおっさんついに本音をぶちまけたよ......

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