第234話 復活のK

「いやぁ。アイネ姫様、お待ちしていましたよ! さ、こちらへ」

 王冠を頭にのせた男性は僕の手を握ろうとする。が、隣に居たティアラを頭にのせた女性がその手をはたき落とした。

「こら! あなた! 失礼でしょ! そんな脂ぎった汚い手でアイネ姫様を触るんじゃありません!!」

「こ、これは失礼しました。どうか......どうかお許しを!! 何なら靴も舐めますんで!!」

 脂ぎった汚い手のおっさ......じゃなかった王冠を頭に乗せた男性は頭を何度も地面にこすりつけていた。

「いや、靴を舐めるのはやめてもらえませんか? 別に怒ってないし謝るのもやめてもらえると助かりますけど? ......と、それより僕はコロネが部屋の隅でさびしんぼうになっているのが気になるんですけど」

「誰がさびしんぼうよ!!」

 先ほどまでおとなしく部屋の隅に居たコロネが復活していた。

「じゃあ折角復活してくれたんだしコロネに今の状況説明してもらおうかな」

「どの辺が折角なのよ!! ......まあいいわ! 友達のお願いとあっては断るわけにもいかないし!」

 別に友達のお願いとか言ってないけどコロネは勝手に良いように解釈してくれた。相変わらずのチョロネっぷりに手間が省けてありがたい限りだけど。

「私がここに来た時にアイネも一緒に来てるって言ったら急にお見合いは中止だとか言い出して、こんな感じに部屋の内装の模様替えをし始めたのよ。その間私は邪魔だからって部屋の隅に居たわけ」

 ふむふむ......なるほど分らん。現場に居合わせたコロネも良く状況が掴めていないということは分ったよ。

「アイネ姫様、少々よろしいですかな?」

 王冠を頭にのせた男性が突然声をかけてきた。

「えっと......いいですけど」

「ありがとうございます。まさかアイネ姫様の貴重なお時間をいただけるなんて感謝感激の極みです!! うぉおおんおん!!」

 王冠を頭にのせた男性はハンカチを取り出し目からあふれ出る涙を拭いていた。

 僕としては『そう思うなら早く要件を!』と突っ込みを入れたいところだけど涙ぐむおっさんに鞭打つようでさすがに言えないな......

「こほん。では......私はこの国の王にして名前はトリュフ!」

 王冠を頭にのせた男性は自身を親指で示した。

「わたくしはこの国の王妃にして名前はキャビア!」

 次にティアラをのせた女性がスカートをたくし上げて一礼した。

「そしておいらがこの国の王子でマスカットです!」

 最後に小太りな少年が自分を指差した。

「両親は果物の名前じゃないのかよ!!」

 僕は3人の自己紹介の感想にその言葉しか出てこなかった。

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