第182話 メイドさんは強し

 トイレから戻るとサーシャがテーブルの上にお茶とクッキーを並べていた。メイド長とサーシャがいる以上念のためさっきの話の続きをするのは危険だね。

「姫様、お茶とクッキーを用意させていただきました」

 サーシャは椅子を引いて僕を席に案内してくれた。僕はクッキーを1つ口に入れ、ティーカップを手に取りゆっくりとお茶を喉の流し込む。朝ごはんを食べていなかったので空腹も紛れて何だか心地いい。

「ところでどうしてアリスは僕のベッドの上でうつ伏せで寝ているの?」

 そう、僕が優雅な時間を過ごしているのに対して、アリスはお茶やクッキーに目もくれずベッドの上に横たわっていたのだ。

「よくぞ聞いてくれましたわ、お姉様!」

 どうやらアリスは聞いて欲しそうだ。

「私がお姉様が戻ってきたら、帰る前にもう一度スカートの中を覗こうと思って部屋の入り口で寝そべっていたんですわ! なのにメイド長が『そのようなところで寝てはいけません』って許してくれなかったんですわ!」

 うん......普通それをいいよ何て言う人はいないんじゃないかな?

「ということで慰めて欲しいですわ、お姉様ぁ!」

 アリスは僕のスカートをめくろうとしながらお願いしてきた。

「いや、何が『ということで』なの? というか流れ作業のようにスカートをめくるのはやめてもらえるかな?」

 僕はアリスにめくられそうになったスカートを必死に抑える。

「「姫様、おやめください!」」

 突然アリスの両脇にメイド服を着た良く似た2人が現れ、アリスの両腕を抱きかかえるように掴んだ。

「ちょっ......なんでここに2人がいるんですか!?」

 アリスが必死に暴れて2人を振り払おうとしていた。

「アイネ姫様のメイド長より連絡いただきましてすぐに駆けつけました。さ、帰りますよ」

 アリスの腕を掴んでいるメイドの1人が諭すように言った。

「い・や・で・す・わ!! それにまだ1時間たってませんわ!!」

「関係ありません。姫様は本日のお勉強をやっておりませんよね? すぐに帰っていただきます」

 もう1人のメイドがそう言うと2人のメイドはさらに力を入れてアリスを部屋の外に引きずっていった。

 ......どこの家でもメイドって強いんだね。じゃなくて折角の手がかりが!! せめて嘘封じの制約くらい話してから帰ってよ!

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