第168話 遠回しに言うと伝わらないこともある

「なるほど......つまりジーク殿下とお見合いにいらしたということですね。でしたら俺に道案内はお任せください!」

 他のメイドたちは帰って言ったのにメイドマンがさも初めから居たかのように道案内を始めた。

「いえ、メイドマンさん......は午後の授業もあるかと思いますので案内いただかなくて大丈夫ですよ」

 カタリナは遠まわしにメイドマンを帰らせようとしてくれているのだろう......ありがとう、カタリナ! そいつをさっさと追い払ってくれ!

「大丈夫ですよ。カタリナ先輩! 俺の今日の授業は終わったので午後からはちょうど暇だったんですよ。それと、メイドマン『さん』の『さん』はなくて大丈夫ですよ」

 ニィっと歯をむき出してメイドマンは笑みを見せた。

 『さん』付けをやめさせてこいつちゃっかり距離を縮めようとでもしているんだろうか? ......というか遠まわしに帰れと言っているのに気づいて欲しいんだけど!

「コホン......ではメイドマン、ニーナ様はどちらにいらっしゃいますか? 先ほどまで授業を受けていたのですよね?」

「ニーナ様は『今からアイネ様を出迎えに行きますので今日の授業は終わりにします』とおっしゃられてましたね」

 ......ニーナが案内してくれるならメイドマンが案内する必要ないよね? 何で道案内を名乗り出たの?

 そんなことを考えていると遠くの方から必死に走ってくる少女の姿が見えた。

「あれは......ニーナ?」

 僕がそう呟いた数秒後にニーナは僕たちの前まで息を切らして到着した。

「はぁ......はぁ......ふぅ。アイネ様......申し訳ありません。少々準備に時間がかかってしまいました」

 ニーナは髪をかきあげて呼吸を整えていた。

 ニーナのこの姿はなんだか小学生のリレーの後みたいでなんだか微笑ましいな。

「ニーナ様も来たことですし早速行きましょうか!」

 メイドマンはそう言ってお城のほうに向かおうとする。

「待て......なぜあなたがいるのですか? メイドマン」

 おや......一気に空気が変わったよ。メイド長モードのニーナだこれ......

「アイネ様を案内して差し上げようかと......」

 メイドマンは冷汗を流しながら目線そらして答えた。

「今すぐ帰って本日の授業の復習でもやってなさい!」

「はい! 承知しました!」

 メイドマンは敬礼をした後に猛ダッシュで走り去っていった。

 さすがニーナだ。あのうっとおしいメイドマンを追い払ってくれたぞ。

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