第162話 サヨナラ忍者さん

「ふっふっふ......そこで私のこの短剣を授けましょう!」

 忍者の掌に銀色に光る短剣が現れ、そのまま僕に手渡した。

「これは?」

「能力殺しの短剣......これをワールドオーナーを刺せばすべての異世界転移者特典の能力を封じることができるのです。さらにこの短剣の見どころはなんと心で念じるだけで出したり消したりできるのです!」

 忍者が得意げに短剣について話しだした。さながらその様子はテレビショッピングの人みたいだ。

「でもお高いんでしょ?」

 だから、僕はこう聞かずにはいられなかった。

「いえいえ、とんでもございません! こちらの商品税込みで......ってちがーう! 時間ないんですから変な寸劇させないでください!」

 自分だってなかなか乗り気で乗り突っ込みしてるくせに。

 忍者は興奮したせいか「はぁはぁ......」と息を切らしていた。そして同時に僕はその短剣を眺めながら呟いた。

「僕は元々勇者になろうと思っていたから、剣で攻撃するのとか抵抗ないと思っていたんだけど。何だか人間を刺すって考えると気が引けるね......」

「いえ......それは気にしなくても大丈夫です。剣の見た目だけど魔法の剣みたいなものなので刺されても痛くないし血も出ない......まあ3日くらい下痢になりますけど」

 そうか。そうか。それはよか......あれ? なんか最後おかしなこと言ってなかった? この忍者?

「そんなことより! 1回誰かに刺してしまうとその短剣は消滅しますから確実にワールドオーナーを刺してください!」

 忍者は忠告するように僕に指を突き付けて警告する。

「で、そのワールドオーナーって誰なの?」

「さあ? 誰なんでしょうね」

「知らないんかい!!」

 僕は間髪入れずに突っ込みを入れてしまった。

 というか1回しか使えないのに誰に使えばいいか分らないって難易度高過ぎだろ!

「えっと......でも安心してください。君がイセカイテンイの杖を手に入れて妨害したってことは杖を手に入れたのを知っている人物のはずです」

「なるほど......つまりあの時グラエム王子のお城いた人が怪しいと」

「いえ、ワールドオーナーには世界を見渡す力があるので、この世界の住人の目を通して世界を見ることができます。つまり近くにいなくてもそれを知ることはできるんですよ」

 ......つまり僕が杖を手に入れたのを知っているという情報じゃ全然絞り込めないんじゃないかよ!!

「え? なんですかそのこいつ役に立たないんじゃね? みたいな目は......あ、他に特徴ありました! 相手は異世界転移者だからこの世界では知りえないことを知っているはずです! 例えばほら日本のこととか!」

 そう言った忍者の体が赤く光り出した。

「え? 今度は何!?」

「あ......やばいです。あと10秒しかこの世界にいられないです。無理してこの世界に侵入しましたけどここまでみたいです。とりあえず君を家に戻しますね」

 忍者の言葉と同時に目の前の景色が見慣れた僕の家の前へと変わった。

「それじゃ、ワールドオーナーを倒せたらまた会いましょう」

「ちょ、待って......」

 僕は止めようとしたがすでに遅く忍者の姿はもう見えなくなった。もちろん止めようとしたのには理由がある。

「アスカのこと忘れてない?」

 誰もいない空に向かって僕は呟いた。

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