第159話 遭難ですよ

「一体何が起きたんですか!? というかここはどこなんですか!?」

 アスカが状況を把握できず連続で質問を投げかける。

「まあまあ、まずは落ち着くッス。とりあえずあっちの洞窟にでも座ってお茶でも飲むッス」

 忍者はアスカの肩にポンと手を乗せて右手に見える洞窟を指差した。しかし、すぐさまアスカはその手を振り払った。

「ふざけないでください! これじゃあ......無断欠勤で私の給料が減額されるじゃないですか!!」

 アスカは両手で自分の顔を覆って泣き出した。

 ......それにしてもアスカ。君はどんな時もぶれないね......こんな状況でも心配するのは自分の給料のことなんて。

「はっ! 今すぐ走って帰ればあまり給料が減額されずに済むはず! メイド長! 今すぐ戻ります!」

「いや、ちょ......この吹雪の中まずいって!」

 アスカは僕の忠告も聞かず猛ダッシュでどこかに走り去ってしまった。

 ......僕を置いてどこかに行く方がまずいんじゃないだろうか?

「こっちに来るッス!」

 忍者は気づかぬうちになぜかもう洞窟のほうに移動していた。仕方ないので僕は洞窟のところまで移動して座った。

「あのさ、今さらな感じもするけど一国の姫が行方不明ってこの状況はまずいと思うんだよ。さっさと家に帰してくれるとありがたいんだけど......」

 不法侵入だけじゃなくて誘拐までしたらほぼ間違いなく死罪だろうけど......

「いやぁ~やっと落ち着けるッスね。時間がなかったから少し手荒なことになって申し訳ないッスね」

 おい......話を聞けよ。この世界のやつはどうしてこうも話を聞かないやつばかりなんだろうか......その件は一旦置いとくとしてとりあえずこの忍者の話を聞くとしようか。

「......はぁ。で、こんなところまで連れていて何か話があったんじゃないの?」

「誘拐されたと理解して意外と落ち着いているッスね。まずは......ちょっと頭を触らせてもらうッス」

 そう言うと忍者は僕の頭に手を乗せた。すると頭をうんうんと頷いた。

「それじゃあ話すッス......■■■■君」

 僕は一瞬その忍者が何と言ったか理解できなかった。それでも次第にゆっくりと頭が理解していく......そう、その名前は僕がよく知っていた名前だった。だって......それは僕の前世での名前だったのだから。

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