第145話 寂しかったんですね

「今の話詳しく聞かせてよ!」

 僕はトイレのドアに向かって少し大きな声を出して尋ねた。

「姫様、トイレに向かって何を話しているんですか......はっ! もしかして!?」

 後ろを振り向くとアスカが洗濯かごに洗濯物を入れて運んでいて口元を右手で押さえていた。

 アスカといえどさすがに今朝の不法侵入者の話は聞いているはず。まずい......ここで見つかったら重要な手掛かりを失ってしまう。

「話し相手がいないから寂しくてトイレと会話していたんですね......」

 さすがアスカというべきか実に残念な思考回路をしていた。

 ......というか僕がそんな寂しいやつみたいなことするとでも思ってるのか!?

「違う! そんなわけあるはずないでしょ! ここに昨日の不法侵入者が......あ!」

 し、しまった......自分でばらしてしまった。アスカの頭の悪い発言を否定しようとしてつい本当のことを言ってしまった......

「え!? この中にいるんですか!? ここは私に任せてください!」

 アスカは手に持っていた洗濯かごを足元に置き、そばにあったモップを手に取った。そしてゆっくりとトイレに近づきおそるおそるドアを開けたが誰も居なかった。

「あの誰も居ませんけど?」

「いや、さっきは居たんだけど......」

 夜中忍び込んできたときも煙のように姿を消してたな......もしかしてあの不法侵入忍者さんは異世界転移特典とかいうやつでワープみたいなことができるのかもしれない。言うまでもないが僕の男にモテるだけの特典とは天と地ほどの差があるね......

「ふむふむ......なるほど! 姫様は構って欲しいから気を引きたくてこんなことやってたのですね」

 アスカは納得したようにうなずいていた。

 ......全くもって不本意な解釈だ! 不法侵入忍者さんも居なくなったし誤解を解くのは難しそうだ......

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