第114話 お口が汚れていたようだ
「アイネ姫......お口が少し汚れている。自分が拭いてあげよう」
グラエムは胸ポケットからハンカチを取りだしてそっと僕の口に手を近づけた。
「いや......ちょっと......」
「いいから、自分に任せて」
拒み後ずさりをする僕に徐々に距離を詰めるグラエム。
男に口を拭いてもらうとか気持ち悪いんで本当に勘弁して......ん? 視線を感じる......
振り向くと悔しそうに口にくわえたハンカチを思いっきり両手で引っ張っているエリシアの姿が見えた。
あれ......おとなしく引き下がった割になぜかかなりこちらの様子を気にしている?
「追いついたぞ。アイネ姫」
僕はすかさずもう後数センチというところまで近づいてきたグラエムのほうを振り返った。
しまった......エリシアさんの様子を気にするあまりグラエム王子が近づいて来るのを気にするのを忘れていた。
パリーン!
「あら、お皿が割れてしまいましたわ」
エリシアは困ったようにその場に立ちつくしていた。
「エリシア様、お怪我はありませんか! 誰か! 皿の破片を片付けてくれ!」
「はっ......直ちに」
グラエムは急いでそこそこの距離をとった位置までエリシアに近づいて声をかけた後、自ら指揮をとってリーダーっぽい執事に片付けを命じた。
さすがは王子様......性格がいいから困った様子の人は見過ごせな......エ、エリシアさんが......ほくそ笑んでいる!? ま、まさか!?
「エリシア様......約束お忘れではないですよね?」
「えぇ~何のことかしら? わたくしは“たまたま”お皿を落としただけよ。“たまたま”なんだから仕方ないわよね」
メイド長がエリシアに近づいて警告をしたが、エリシアは人差し指をあごにつけて首をかしげながら答えた。
か、確信犯だ......この人絶対にわざとやってる。いや......今はそんなことより約束って何のこと? さっきエリシアさんがおとなしくなったのと何か関係があるの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます