第92話 何しに来たの?

「えっと......ニーナはジーク王子のメイドなんだよね? 今ジーク王子はどうしているの?」

「はい。隣国が攻め入ってきたので返り討ちにしようと戦っておられます」

 そう言えば前に会った時にも戦ってたな。全く、何で男は戦いが好きなんだろうか......いや待て! いかんいかん! 僕も男だろ!! なんてことを忘れかけてたんだ......

「なるほど......じゃあニーナは今日はお見合いできないって報告に来たの?」

「はい。そうです。ですがこのままではドタキャンしたみたいになってしまいますのでうちがお詫びに料理を振舞いに来ました」

「ふっ......それは残念ですね。姫様は私の作った超おいしい料理を食べたことがあるので、あなたみたいなちびっこが作った私のよりおいしくない料理程度じゃお詫びにはなりませんよ!」

 アスカは自分の得意分野だからだろうか張り合って自慢げな顔をしている。

 別にお詫びだからってアスカよりおいしい料理を作る必要はないんじゃないかな?

「......つまり、ジーク殿下の元でメイド長をやっているうちの料理があなたよりも劣っていると......」

 ニーナはさっと血の気が引くかと思える凍りついたような視線でアスカを睨んだ。

 ニーナはこんな小さな子供なのにメイド長やってるんだ。自分の立場に誇りを持っているからプライドが傷ついて怒っている.......そんなところか。

「えっと、いやその......つまり......」

 アスカは明らかに怒っているニーナの様子を見て突然慌てだした。

 さすがに失言したことに気づいて何とか訂正しようと言葉を選んでいるのだろう。

 だけどアスカが話しだす前にニーナは話しを続けた。

「あなたはアスカさんですね? あなたの噂はうちも聞いたことがあります」

「どんなひどい噂なの?」

 僕は反射的にそう聞き返してしまった。

「ひどい噂って何で決めつけているんですか!? いい噂かもしれないじゃないですか!?」

 アスカは食いつくように反論した。

「はい。アイネ様のおっしゃる通りひどい噂ですよ。なんでも全くメイドとしての仕事ができないとか」

「よかったね。間違った噂が広がっていなくて!」

 僕はアスカの肩をポンと叩いた。

「姫様、こんな不名誉な噂ならむしろ間違ってて欲しかったです......」

 アスカは地面に手をついて落ち込んでいた。

 どうやらアスカにもメイドとしてのプライドはあったようだ。

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