第56話 カチコミ

 本日、目を覚ますと昨日の誕生日会で聞き忘れていたことを思い出した。

「そうだ! 妹のことだ!」

 僕はベッドの布団を蹴飛ばして自分の部屋から出た。

「あれ?」

 部屋を出ると違和感に気づいた。普段ならメイドの誰かが部屋の前にいるからだ。

 でも、メイドだって人間だもの。たまには寝坊くらいすることもあるか。

 そんなことを考えていると遠くの部屋から叫び声のようなものが聞こえた。

「なんだろう? 何かあったのかな?」

 声のする方に向かってみるとメイド長と昨日の誕生日会で会ったガニアンが向かい合っていた。

 その様子はまさに過酷な戦いを乗り越え勇者が魔王と最終決戦を始めるときみたいな感じだ。

「......って何があったんだよ!」

「姫様! まずいですよ! カチコミですよ! 『アイネ姫を出せ』ってあっちの怖そうな人が突然今朝やってきたんですよ!」

 アスカはぶるぶる震えてガニアンのほうを指差した。

 あの怖そうな顔でそんなこと言われたらそうなるか......

「......! アイネ姫! そちらにいたのですか!」

 おっと......その怖そうなガニアンと目があってしまった。

 ガニアンは警戒しているメイドたちをかきわけて僕のところまで歩いて来て膝をついた。

「おはようございます」

 ガニアンは騎士のように礼儀正しく挨拶をした。

「えっと......おはようございます......」

 僕は戸惑いながらも挨拶を返した。

 キラキラ目を光らせて嬉しそうな表情を浮かべるガニアン。それを見てざわざわしているメイドたち。呆れたような表情をしているメイド長。何だこの状況......

「それより、ガニアンさんは僕の家知らなかったんじゃ?」

「はい! 知らなかったので昨日、我が国の総力をあげて尾行しましたのでみごと家を突き止めることができました」

 おっと......何という執念だろうか。さすがは最大国家ということか......

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