第15話 お見合い出張

「本日最後のお見合い相手のジーク殿下ですがただいま公務中でできれば会いに来て欲しいとのことでした」

「そう。できればってことはできないなら中止でいいんだよね?」

 メイド長のメッセージを否定するように僕は答えた。

「ということですので早速行きましょうか姫様」

 僕の意見をまるで何もなかったかのように無視された。

 どうせ文句を言ったところで行くことになるんだろうから僕は文句など言わない。

 自分の無力さが悔やまれるよ......

 メイドたちが馬車を準備するとメイド長が僕を担いで半強制的に馬車に乗られた。

 続いておまけのようにアスカも馬車に乗る。

「姫様!! なんだか遠出って楽しいですよね」

「僕も行き先が男のところじゃなければ楽しいよ」

 少しだけ嫌味のようにメイド長に言う。しかしメイド長には効果がなかった。

「姫様、お茶が入りましたのでこちらをどうぞ」

「ありがとう」

 自然な感じにお茶を準備されまるで僕の嫌味を聞いていなかったみたいだ。

 しかし、紅茶ばかり飲んでいるとたまには緑茶を飲んでみたくなるのは元日本人だったせいだろうか。

 そんなことを考えているとふといいことを思いついた。

「アスカを替え玉にしてお見合いさせればよくない?」

「姫様......本気ですか?」

 アスカは恐ろしいものを見たような顔で僕に尋ねる。

「もちろん!」

「ですが姫様......」

「大丈夫だって! どうせ私の顔なんて知らないでしょ」

「いえ......そうではなく......」

 なんだかアスカの言葉の切れが悪い。

「何か問題があるの? 問題があるなら言ってみてよ」

「はい......分りました。メイド長が聞いてますよ?」

「メイド長......別にいいよね? たまには休んでも?」

 僕は可愛い女の子を演じるためめをうるうるさせて聞いてみた。

 どうだ! 可愛い女の子の些細な頼みなら断れまい!!

「では姫様お化粧を直しましょうか」

 うん......予想はしていたけどね。メイド長に僕のわがままは通じないよね。

「着きましたよ」

 御者の人が一言教えてくれた。漫才みたいなやりとりをしているうちにジーク殿下との待ち合わせの場所に到着したようだ。

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