第171話 これも収穫物だしね

 詳しいことは企業秘密ということで、不思議がるララさんに「また折れたら言ってください」とだけ伝えて、僕は再びアーセルの自宅へと戻ってきた。


「余った剣は倉庫にでも入れておこう」


 このスキルの欠点が一つあるとしたら、栽培できる数を指定できないことだ。

 お陰で一度にたくさん増えてしまう。


 まぁ、普通に栽培するときもそうだったけど。

 ただそれは収穫物保存のスキルがあるので――


「いや、もしかしたらこの剣も保存できるとか?」


 試してみると剣が消えた。

 どうやら植込栽培で増やしたものも、ちゃんと保存できるらしい。


「考えてみたらこれも収穫物だしね」


 これで保管場所に困ることはなくなった。


「ジオさんー、いらっしゃいますかー?」


 と、そのとき玄関の方から声が聞こえてきた。

 このちょっと間延びした感じの声は、きっとリルカさんだ。


「リルカさん、こんにちは。どうされましたか?」

「こんにちはですー。実はですねー、以前、ジオさんに預けていただいた品物がー、無事に売れましてー」

「預けていた品物……?」

「お、お忘れですかー? ファフニールの素材ですよー。王都のオークションに代理出品させていただきましたー」

「あ、そういえば」


 そうか。

 オークションの話、リルカさんとしたんだった。


「それで、どうでしたか?」

「ええと……それがですねー……」


 どこか言い辛そうにしているリルカさんの様子に、何となくあまり高値で売れなかったのだろうと僕は察した。


「はは、気にされないでください。リルカさんが悪いわけじゃないですから」




「ととととっ、とんでもない金額がついてしまいました~~~っ!!」




「……え?」


 あれ、なんかリルカさんが予想と全然違うこと叫んだ気が……。


「ああ、なるほど。とんでもないって、とんでもなく安かったってことですよね?」

「違いますよーっ! 超高額になったってことですよーっ!」

「ええっ? ほ、ほんとですか?」


 リルカさんが言うには、ファフニールは恐ろしい魔物であるものの、それは瘴気によるところが大きく、ドラゴンの素材としては並くらいという話だったけど。


「そもそも並のドラゴンの素材でも十分な値が付くのですがー、ファフニール自体の希少性と鱗の瘴気耐性の分、それなりの評価になるとは思っていたんですよー」


 そう言いながら、リルカさんが魔法袋から別の袋を取り出す。

 中身がぎっしり詰まったそれを僕の方に差し出しながら、


「それが予想を遥かに超えてしまいまして……金貨四千枚で売れてしまいましたー。諸々の手数料を差し引いてお渡しは金貨三千二百枚ですー」

「……はい?」


 今、金貨四千枚とか言わなかった?


「いやいや、銀貨四千枚ですよね? 金貨四千枚だなんて、そんな……エリクサーじゃないんですから……」

「まさにそのエリクサー以来の高値で落札されたんですよ~~っ!」

「えええ……」


 まぁ以前、そのエリクサーを持ってたわけなんだけれど……。


「い、一体、どんな人が買っていかれたんですか?」

「素材は部位に分けて別々に販売されたので、買い手は色々ですねー。中でも最も高額になったのが鱗でしてー、噂ではこの国の大領主らしいですー」

「大領主……一体何のために?」

「どうやら領内に瘴気で侵された鉱山があるとかー。瘴気耐性を持つファフニールの鱗があれば、鉱山の利用ができようになると踏んだのではないですかねー」


 僕はリルカさんから袋を受け取った。

 めちゃくちゃ重たい。


 ていうか、これだけでもう一生食べていけるよね……。


 と、そこで僕はふと思った。

 植込栽培を使えば、生き物以外は幾らでも増殖させることができる。


 じゃあ、金貨は……?







「できてしまった……」


 リルカさんが帰るのを見送った後、僕は好奇心に駆られて、金貨を一枚、菜園に植えてみた。

 するとおよそ一時間後、なんと本当に金貨が増えてしまったのだ。


「つまり、お金を無限に増やせるってことに……さ、さすがにこれはダメだよね、うん」


 こんな真似ができるなんて、もしセナが知ったりなんかしたら、その日からぐうたら生活一直線に違いない。


 まぁ考えてみたら、そもそも物を幾らでも増やせる時点で、お金だって幾らでも増やせるわけなんだけれど……。

 それでも直接お金を増殖させるのは反則だと思う。



   ◇ ◇ ◇



 ジオが菜園で金貨を増やしていた頃。


「リヨン様、剣のことですガ……」

「ああ、すまない。まだ入手の目処が立っていなくて……」

「ええと……実は探していただく必要がなくなったのでス」

「? どういうことだい?」

「これをご覧くださイ」

「っ!? これはっ……君の愛用していた剣が、元通りになっている!?」


 目を剥くリヨン。

 何事だとロインとボボが駆け寄ってきた。


「おいおい、マジかよ? どうなってんだ?」

「もう手に入ったんだー?」

「いえ、ボボ。これはまったく同じものでス」


 リヨンが困惑しながら問う。


「あの状態の剣を完璧に修復したっていうのかい……? それも二本とも……一体、どこの鍛冶師に直してもらったんだ……?」

「それが分からないのでス。それに……こちらをご覧くださイ」


 そう言ってララが見せてきたものに、彼らは驚愕させられたのだった。


「「「お、同じ剣が二本あるううううううううううっ!?」」」


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