第170話 この二本は予備です

「全部増えちゃった……」


 食器も服も椅子も、どれも一つずつしか植えてないのに、同じものが幾つも生えてきてしまった。


「あれ? しかもこれ……端っこが欠けてたはずなのに……」


 何枚にも増えたお皿を一枚引っこ抜いてみると、元のお皿にはあったはずの欠けや汚れが見当たらなかったのだ。

 他のお皿を確認してみても同様だ。


「確かこれが元のお皿……あっ、ちゃんと欠けてる……」


 汚れもそのままだった。

 ということは……ただ増殖するだけじゃなくて、新品になって増殖するってこと?


「このぬいぐるみも……」


 妹が幼い頃にずっと抱いていたクマのぬいぐるみ。

 片方の耳が取れていたのに、新しく生えてきたぬいぐるみは、それが元通りになっている。


「剣も新品同然だ」


 冒険者を始めたときに買ってあげたけど、今は使っていないセナの剣。

 刃毀れしまくっていたのに、これも綺麗な元の姿で増殖していた。


「これを使ったら壊れたものでも元通りになるってことか……」


 そしてどうやらこの菜園で収穫したものも、このスキルで増殖できるようだった。

 まぁ一から栽培すればいいので、あまり意味はないけど。


 一方、魔石には使えないらしい。

 もし増殖できれば、幾らでもレベルアップできると思ったんだけど、さすがにそこまで都合はよくないか。


 あと、生き物にも使えないようだった。

 家にいたクモを捕まえて菜園に持ってきたのだけれど、


〈それは栽培できません〉


 と言われてしまったのだ。

 ……人間を栽培できちゃったらどうしようと思ったけど、その心配はなさそうだ。


「もしできたとしたら、赤ん坊で生まれてきちゃうのかな……うーん、怖いから深く考えるのはやめよう」


 ちなみに魔物の卵から生まれてきたミルクたちも栽培できなかった。

 もしかしたら魔物の卵の段階なら増殖できるのかもしれないけど。


「あ、そうだ。このスキルがあれば……」


 ふと思い至ったことがあって、僕は単身で王都に置いてきた菜園へと転移した。


「ララさん、いるかな?」


 いつも世話になっている冒険者ギルドの王都東支部。

 ここの建物内にはリヨンたちパーティ専用の部屋があるらしい。


 別にリヨンが王族だからじゃなくて、その支部で一定以上の実績を残していれば、部屋を借りることができるという。

 冒険中でなければそこにいる可能性があった。


 受付嬢に部屋番号を教えてもらって、僕はその部屋のところまでやってくる。


「ええと……ここかな? こんにちは。ジオです」

「……ジオさん?」


 ノックすると返事があった。

 ドアが開いて、兎耳のララさんが姿を見せる。


「すいません、突然。ララさんに用事があって」

「私に? どうぞ、入ってくださイ」


 中は結構な広さだった。

 僕の家のリビングと台所を合わせたくらいはあると思う。


 ボボさんがソファの上で寝ていて、リヨンとロインの姿はなかった。


「何の用でしょうカ?」

「決勝で折れた二本の剣、まだありますか?」

「剣ですカ? それならまだ処分していませんガ……」


 ララさんが指さす方へ視線をやると、鞘に収まった状態で剣が置かれていた。


「これ、少しお借りしても?」

「借りる……? 別に構いませんが……どうされるつもりですカ?」

「もしかしたら直せるかもしれないんです」

「はイ?」


 怪訝そうな顔をするララさんと別れ、ギルドの中庭に置いてある家庭菜園へ。


 それにしても重たい……。

 こんなのを片手で振り回しているとか、ララさんどんな腕力しているんだろう。

 見た目は華奢なのに。


「別にここに植えてもいいんだけど、周りが気になるから家の方にしよう」


 菜園隠蔽のお陰で見えないとはいえ、たまに人が通ると不安になってしまう。

 そして自宅に転移した僕は、早速ララさんの折れた剣を二本とも植えてみた。


「鞘のままでいいよね。これで新品が生えてくるはず」


 そうして待つことおよそ一時間。


「よし、できてる」


 植えた剣の周囲が剣山のようになっていた。

 そのうちの一本を引っこ抜いて鞘から取り出してみると、元の綺麗な刀身の剣が姿を現す。


「うん、成功だ。……こっちの剣も問題ないね」


 新しい剣を二本抱え、ララさんのところに運ぼうとする。


「……せっかくだし、もう一本ずつ持っていこうかな? 予備になるだろうし」


 というわけで四本を抱えて、僕は菜園間転移を使った。


「ララさん、ジオです。失礼します」

「ジオさん、先ほどのはどういう意味でしょうカ? 折れた剣が直せるなんて、さすがにそんなことは――」

「すいません、重いんでここに置きますね……」


 僕は急いでテーブルの上に四本の剣を置いた。

 腕がもう限界だったからだ。


 何回かに分けて持ってくればよかった……。


「ええと、一応、確認してみてください」

「……」


 僕が一本を手渡すと、ララさんは訝しそうにしつつも鞘から剣を引き抜いた。


「っ!? これハ!? け、剣が、元通りになっていまス!?」

「はい。こっちの方も直りました」

「ほ、本当でス!? 一体これはどういうことですカ!? しかもよく見ると柄の部分も新しくなってませんカ!? それに鞘も新品同然でス!」


 目を剥いて叫ぶララさん。

 うんうん、喜んでもらえたようで良かった。


「あと、この二本は予備です」

「直ったどころか増えていまス!?」

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