第155話 私も出場しますからネ

「なるほど。詐欺グループがよくやる手口だね」


 僕の話を聞き終え、リヨンが頷く。


「あ、あんたたち、こんなことして無事で済むと思ってんのかいっ?」


 そこへ割り込んできたのは、自称占い師のおばさんだ。

 たぶん本当は占いなんてできないんだろうな……。


「あたしらのバックには、この辺りを牛耳ってる恐ろしい連中がいるんだからねぇっ!」


 おばさんは唾を飛ばしながら、そう脅してくる。

 すると何を思ったか、リヨンが不意におばさんへと近づいていった。


 そして耳元で何かを囁く。


「~~~~っ!?」


 目を見開き、あわあわと口を震わせるおばさん。


 それですっかり大人しくなったおばさんと気絶した男を、リヨンたちにも手伝ってもらい、騎士団の詰め所へと連れていく。

 男を片手で運んでいるララさん……相変わらず凄い怪力だ。


 詰め所では、なぜか最初は騎士たちの反応が微妙だった。

 こんな詐欺はよくあることだと言って、あまり真剣には取り合ってくれなかったのだ。


 だけど、リヨンが何かを見せると、反応が一変した。

 騎士たちが急に態度を改め、上司まで出てきて真摯に対応してくれるようになったのである。


 捕まえた二人は騎士団の本部へと突き出し、そこでしっかり取り調べを行ってくれるそうだ。


「まったく……恐らく彼らは犯罪組織から賄賂を貰っていたのだろう。違法行為を発見しても見逃すように、とね。あのままだとロクに対応しないどころか、二人ともしばらく拘束した後には、何事もなかったかのように釈放していたに違いない」


 詰め所を後にしてから、リヨンが腹立たし気に教えてくれた。


「ええと……リヨンって何者? さっきもおばさんが急に態度を変えてたし……」

「はは、ただの冒険者だよ」


 そうは見えないんだけど。


「そんなことより、君たちどうやってこんなに短期間で地上まで戻って来たんだい? あそこからだと、どんなに早くても一週間はかかるっていうのに」


 問われて、返答に窮する。

 すでに移動する畑は見られてしまったけど、詮索されはしなかったので、詳しいことは何も話していない。


「そ、そういうリヨンの方こそ、どうやって?」


 僕たちは家庭菜園で一瞬だけど、リヨンたちはそうはいかないはずだ。

 彼らも何か簡単にダンジョンを脱出できる手段を持っているのかもしれない。


「ぼくたちは転移結晶を使ったんだ」

「転移結晶?」

「転移魔法が込められた魔法石のことさ」


 そう言ってリヨンが取り出したのは、淡い光を放つ拳大の結晶だった。

 魔石と違って綺麗に研磨されていて、まるで宝石のようだ。


「もちろん万能型じゃなくて、あくまで脱出にしか使えない制限付きのものなんだ。それでもかなり希少で、手に入れるのは容易じゃない。凄く高価だし。ぼくたちが手に入れることができたのはほとんど偶然で、ダンジョンの深層に挑む高位の冒険者たちが喉から手が出るくらい欲しがるアイテムだよ」


 聞けば、リヨンたちは借金をして購入したらしい。

 冒険者がよく借金できたよね……。

 Aランクともなると信用が違うのかもしれない。


「へえ……そんなものが……」

「……その反応だと、どうやら転移結晶じゃないみたいだね」


 あ、しまった。

 僕らも転移結晶を使ったってことにしておけばよかったのに。


「いや、別に詮索するつもりはないよ。隠しておきたい情報があるのは当然だしね。そもそもあの動く畑のことの方がよっぽど気になるし……」


 その畑を使ったんだけどね。


「ともかく二人のお陰で助かったよ」


 僕たちというより、むしろ腕を斬られたあの男の方が、かもしれないけど。


「ところでセナ氏はまだCランクという話でしたカ? それだけの実力があればAランクは確実だと思いますケド、やはり昇格試験は受けないのですカ?」

「受けないよ! だって勉強したくないもん!」


 いっそ清々しいほどの即答だ。


「実はそんなセナ氏に耳よりの情報があるのですガ」

「耳よりー?」

「はい。国中の戦士たちが集い、その力を競い合う武術大会が王都で開催されるのでス」


 ……聞いたことがある。

 アーセルの街でも、開催が近づくと話題になるくらいに有名な大会だ。


「四年に一度行われ、王族の方々もご覧になる歴史ある大会でス。実はこの大会で優勝すれば、どのランクの冒険者であっても、試験を受けることなく一気にAランクにまで昇格できるのですヨ」

「一気にAランクに!? それ、大丈夫なんですか?」


 僕のような駆け出しの冒険者であっても、いきなりAランクになれてしまうってことだ。

 色々と問題があるような。


「心配は要りませン。そもそもこの大会で優勝するには、Aランク以上の実力を持っていることがですからネ。なにせAランク冒険者が何人も出場するような大会です。運よく優勝、なんてことはあり得ませんヨ」


 なるほど。

 正規のルートでAランクになるよりも、よっぽど難しいってことか。


「ですが……」


 ちらり、とララさんがセナを見る。


「セナ氏であれば、可能性はゼロではないかと」

「あたしー?」


 キョトンとしているセナに、僕は噛み砕いて説明してやる。


「優勝すれば筆記試験を受けなくてよくなるんだって」

「ほんと!? やったーっ!」

「いや、あくまでその大会で優勝できれば、だぞ」

「優勝するするーっ!」

「……もちろん、優勝するのは簡単ではありませんヨ」


 すでに優勝した気になっているセナに、少し闘気を漲らせながらララさんが釘をさす。


「なにせ、大会には私も出場しますからネ」

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