第140話 定番中の定番よ

 元々は街の中心にあったというダンジョンだけれど、その後の都市の拡張に伴い、現在は王都中心からやや北東寄りに位置したという。


 内部からの魔物の脱走に備えて、物々しい砦が建てられている。

 その周辺は広場になっていて、ダンジョンに挑む冒険者を目当てにした食べ物やアイテムなどの露店が幾つも設置されていた。


 さすがは王国最大にして最難関のダンジョンだ。

 その名も、『無限階層』。


 地下へ地下へと潜っていく階層構造。

 そして、未だ誰一人として最下層に辿り着いたものがおらず、それゆえ階層が無限にあるのではないか、と言われ始めたことからその名が付いたのだとか。


「って、いきなりそんなところに挑まなくても!」


 人生初のダンジョンが国内最難関だなんて、ついさっき冒険者登録を終えたばかりの人間には厳しすぎる。

 しかもちょっと前までダンジョンに潜るつもりすらなかったってのに。


「心配要らないわ。潜るほど難易度が上がっていくダンジョンで、上層であればそこまで危険ではないようだから」

「もし菜園ごと入れなければ、引き返せばいい」


 ちなみにダンジョンに持ち込む家庭菜園だけれど、サイズは馬車一台ほど。

 街の入り口を十分通り抜けられる大きさなので、菜園隠蔽を使ってここまで移動させてきた。


「ちょっと待って。あの入り口、思っていたより狭いんだけど……通れるかな?」


 魔物の脱走時を考慮してか、砦の入り口はかなり狭く作られていた。

 下手したら菜園が通らないかもしれない。


「縦にしたらどう? 空を飛べるくらいだしできるんじゃない?」

「いやいや、さすがに縦には……あっ、できた」


 やってみたらできた。

 今まで試したことなかったけれど、どうやら僕の家庭菜園は回転させることも可能らしい。


「……何でしょう。もう色々とぶっ飛び過ぎたものを見てきたせいか、回転するくらい当然みたいに思ってしまうんですが」


 サラッサさんが半眼で呻いている。


 入り口の手前で冒険者証のチェックが行われ、無事にパスして入り口を通過していく。


 砦の中は広い空間になっていた。

 中央にぽっかりと巨大な穴が開いていて、どうやらあれがダンジョンの入り口らしい。

 螺旋階段が設けられ、それを降りて中に入れるようになっているようだった。


 さて、問題はここからだ。

 この家庭菜園を連れて、あの穴を降りていくことができるのか……。


 もしできなかったら、わざわざ冒険者登録し、ここまで来たのに引き返さなければならなくなる。

 そしたら間違いなくセナがダンジョンに潜ることを渋るので、シーファさんに大きな迷惑をかけてしまうだろう。


 ドキドキしながら、僕は家庭菜園と一緒にその穴を降りていく。

 そして――


「……通れた?」

「みたい」

「やった!」


 気づけば階段を降り切っていた。


「ま、そうだろうと予想してたけど」

「ですね。この家庭菜園、今まで期待を超えていったことはあっても、期待を裏切ったことないですし」


 あれ?

 なんか当たり前のように思われてる……?


 アニィたちの言い方にはちょっと納得がいかないけれど、どうやらダンジョンの中にも家庭菜園を持ち込むことができるらしい。


「よかった。これでジオも一緒にダンジョンに潜れる」

「は、はい! よかったです!」


 シーファさんに喜んでもらえたらならそれだけで十分だね、うん。


 そして階段を降りた僕たちを待っていたのは、ごつごつとした岩肌が覗く洞窟だった。


「最初は洞窟型のようね。ダンジョンとしては定番中の定番よ」


 アニィが慣れた様子で呟きながら、首を振って周囲を観察している。

 ちなみにアーセルのダンジョンも最初に洞窟のエリアがあって、そこから他のエリアに枝分かれしているらしい。


 ここはまだ入り口なので、他の冒険者たちの目もある。

 ひとまず人目が無くなる少し先まで進んでみようと、僕たちは歩き出した。


 しばらく行くと、前方から数体の人影が現れた。

 ……いや、あれは人じゃない。

 よく見たら頭が犬だ。


「コボルトね」

「えい」

「「「ぎゃん!?」」」


 セナが剣を一閃。

 発生した見えない刃が、コボルトたちを一瞬で胴体から真っ二つにしてしまう。


 どうやらアニィが言っていた通り、最初は大した魔物が出ないようで、その後もほとんどセナが瞬殺していく。


 やがて人気のない場所まで辿り着いたところで、


「ここから地上の家庭菜園に転移できるか試してみよう」


 菜園の中に入り、菜園転移を使ってみる。

 次の瞬間、視界が切り替わって、アーセルにある自宅へと戻ってくることができた。


 どうやらダンジョンの中と外でもちゃんと転移が可能なようだ。


「ま、そうだろうと予想してたけど」

「ですね。この家庭菜園、今まで期待を超えていったことはあっても、期待を裏切ったことないですし」


 ……二人がさっきとまったく同じこと言ってる。


「疲れたから今日の探索は終わりー」

「まだちょっと歩いただけだろ。ほら、一応、向こうに戻ることもできるか、試してみないといけないから」

「えー」


 不承不承の妹を連れて、今度はダンジョンに置いてきた菜園への転移を試してみる。

 視界が再び洞窟の中へと切り替わった。


「ちゃんと戻れるみたいだ」

「ま、そうだろうと――」

「この家庭菜園――」

「……」

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