第139話 冒険者になればいいじゃん

「ここが王都……」

「すごーい! 人がいっぱい!」


 色々あったけれど、ようやく僕たちは当初の目的地である王都に辿り着いていた。


 セナがきょろきょろしながらハイテンションで叫んだ通り、とにかく人が多い。

 さすがはアーセルの何倍もの人口があるという王都だ。


 エルフやドワーフ、それに獣人など珍しい種族の姿も見受けられる。

 ……まぁエルフは最近森で会ったばかりだし、ドワーフと獣人はうちの第二家庭菜園にいるけどね。


 高い建物も多く、しかも密集している。

 入り口の城門を潜った直後から商店が軒を連ねていて、店員らしき人が元気よく呼び込みをしていた。

 凄い活気だ。


 遠くに聳え立つのは恐らく王城だろう。

 アーセルの領主様のお城も大きいと思っていたけれど、その比じゃない。

 機会があれば見に行ってみたいな。


「王都には冒険者ギルドの支部が東西南北に一か所ずつある。一番近いのは東」


 シーファさんがそう言って歩き出そうとすると、セナが不満そうに声を上げた。


「えー、観光しないのー?」

「観光? したいの?」


 首を傾げるシーファさん。

 その反応から推測するに、どうやら王都に来ておいて、彼女の頭には観光するという考えがまったくなかったらしい。


「だって王都だよ! せっかく来たんだから観光くらいしないと! むしろ観光がメインでもいいくらいだよ!」

「メインはないだろ」


 セナはセナで相変わらず働きたくないようだ。


「じゃあ、そのうち観光する。でも今日はひとまずギルド」


 というわけで、僕たちは冒険者ギルドへとやってきた。


「お、大きい……」


 僕は思わず圧倒されてしまう。

 全部で四か所もあるという話だったのに、アーセルのギルドよりもずっと大きな建物だったのだ。


 中にも人が大勢いた。

 つまりそれだけ、王都には冒険者の需要があるということだろう。


「王都にはこの国で最大のダンジョンがあるわ。だから世界中から多くの冒険者が集まってきているのよ」


 と、アニィ。

 さらに、サラッサさんが、


「王都の周辺にも、小さなダンジョンが幾つかあります。元々そうしたダンジョンの攻略拠点として発展したのが、この都市なんです」


 ということは、シーファさんたちもこれから主にダンジョンに潜る感じだろうか。

 そうなると僕はお留守番かな?


「王都のダンジョンは広大。何階層にもなっていて、しかも一つの階層を突破するだけでも何日もかかる。深く潜ろうとしたら、それこそ遠征するに等しい」

「ええーっ!」


 セナが大声を上げた。


「そんなのイヤだよーっ! アーセルのダンジョンでさえ大変だったのに! あれでもう限界! ヤダヤダヤダ! 絶対そんなとこ潜らないもん!」

「ちょ、こら、セナ! 周りが見てるだろ!」

「あ、そうだ! お兄ちゃんも付いてきてよ! それなら考えてあげる!」

「なに言ってんだよ。僕は冒険者じゃないんだぞ」


 冒険者など、特別な許可を得た者でなければダンジョンに立ち入ることができないようになっているのだ。

 誰でも潜れたら危険だし、犯罪者などの侵入を防ぐ目的もある。


「だったら冒険者になればいいじゃん! 登録なんて一瞬だよ!」

「僕が冒険者に……?」


 言われてみて、はたと思う。


 僕は元々、父さんのような冒険者を目指していたのだ。

 ただ、ギフトが明らかに冒険に相応しいものじゃなかったので、それを諦めてしまった。


 だけど、今のこの状況。

 結局、僕はシーファさんのパーティに同行し、王都までやってきてしまった。

 ……すでに冒険者も同然では?


「いやいや、そもそも僕、まるで戦えないし……」

「冒険者の中には〝荷物持ち〟を専門にしてる人もいる。戦える必要はない」


 と、シーファさん。


「ていうか、お兄ちゃんゴーレム使えるじゃん! あれはもう土魔法使いだよ!」

「確かにあのゴーレムの性能は、そこらの土魔法使いを遥かに凌駕していますね……」

「それがなくても、自在に空中を飛べるわ、攻撃を防げるわ、いつでも撤退できるわで、もはや戦力中の戦力でしょ……」


 あれ?

 そう考えたら、僕って意外と戦えるんじゃ……?


「問題は、ダンジョンの中へ菜園を持ち込めるかね」

「た、確かにそうか。菜園転移も使えるかどうか分からないし……」

「試してみればいい」

「シーファちゃんの言う通り! やってみよう、行ってみよう!」

「ちょっ、セナ!?」


 セナに腕を引っ張られ、僕は受付へと連れて行かれる。


「お兄ちゃんを冒険者登録してちょうだい!」

「冒険者登録ですね。では、こちらに必要事項をご記入ください」


 ほんと、いつも強引なんだよね、この妹は……。

 僕は気持ちの整理がつかないまま、受付嬢のお姉さんが差し出した用紙に目を通す。


 冒険者になるだけなら、どんなギフトだろうと問題ない。

 後は成人していることと、犯罪歴がないことが条件だ。

 特に試験もないため、基本的には誰でも冒険者になることができる。


 ちなみに犯罪歴の確認は、一般的に【鑑定】などのギフトで行われる。

 ただ、現役の冒険者の推薦を受けることで、それを省略することが可能だった。


 ……もちろん後から偽りが判明したら、推薦者ともども相応の処罰を受けることになるわけだけど。


「私が推薦する」

「シーファさん、いいんですか?」

「もちろん。……犯罪歴、ない?」

「ないですないです!」

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