第138話 依頼なんてどうでもいい

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 ジオの家庭菜園

  レベル61 28/305

  菜園面積:10501150/∞

  スキル:塀生成 防壁生成 城壁生成 結界生成 ガーディアン生成 メガガーディアン生成 ギガガーディアン生成 菜園隠蔽 菜園間転移 菜園移動 遠隔栽培 自動栽培 収穫物保存 三次元移動 小屋生成 家屋生成 地中潜行

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〈レベルが上がりました〉

〈スキル:地中潜行を習得しました〉

〈新たな作物の栽培が可能になりました〉


 今までで最も大きな魔石だけあって、通常の魔石の千個分以上に相当したようだ。


「新しいスキルを覚えたぞ。……地中潜行?」


 何だこれは?

 名前の通りに考えると、地面に潜っていけるってこと……?


 三次元移動と言っても、地面があるためそれ以上、下方向へ移動することは不可能だった。

 けれどこのスキルがあれば、もうそんな制約に縛られることはなくなる――


「いやいや、別にそんな必要ないって」


 ともかく一度、試してみるとしよう。


 だけど第二家庭菜園に使うのはちょっと怖い。

 この巨大な菜園が地下へと潜っていくとなると、想像しただけでとんでもない話だ。


 かといって、第一家庭菜園には今、マーリンさんがいるから難しいとして……。


「王都に置いてきたやつを使おうかな」


 そうして僕は冒険用に利用している家庭菜園へと飛んだ。


〈地中潜行を使いますか?〉


 頷くと、家庭菜園がゆっくりと地面に沈み込み始めた。

 そのままどんどん沈没していく。


 やがて僕の身体の深さまで到達したけれど、結界のお陰か、中に土が入ってきたりはしていない。

 さらにその状態から、前後左右にも移動することができた。


「さすがに移動速度はそんなに速くないんだね」


 一通り試しては見たけれど、やっぱり今のところ使い道はあまりなさそうだった。



     ◇ ◇ ◇



「お、おい、これを見ろ」

「何だ、この謎の穴は……?」


 王都からほど近い場所。

 とある冒険者パーティが謎の穴を発見した。


「かなりの大きさだぞ?」

「今までこんな場所に穴なんてなかったよな」


 その穴の広さは直径二メートル近い。

 深さは三メートルほどか。


 冒険者として鍛えている彼らならまだしも、普通の人間が誤って落ちたりなんかしたら、無事では済まない高さだ。


「調べてみるか」

「気を付けろ。魔物が掘った穴かもしれないぞ」

「心配するな、近くにそういう気配は感じない。よっと」


 彼らの一人がその穴の中へ飛び込み、着地した。


「どうなってる?」

「こっちに横穴があるぞ。しかもかなり奥まで続いている!」


 どうやら穴はそこで終わっているわけではなく、横方向に続いているらしい。

 後を追って仲間たちも穴へと降りてくる。


「まさか、ダンジョン……?」

「こんなところに? 王都のすぐ近くだぞ。何で今まで見つからなかったんだよ」

「新たにできたのかもしれない。ダンジョンってのは、急に出現することもある。それに、既存のダンジョンが伸長して、新たな出入り口が現れることもあるしな」

「なるほど、もしかしたら王都内にあるダンジョンに繋がってるかもしれないな」

「だとしたら大発見だぞ」

「と、とにかく、探索してみようぜっ! 手付かずのお宝が見つかるかもしれねぇ!」

「けど、いいのか? 今日中に村に辿り着かないと、依頼が……」

「ばか! こんなチャンス逃せねぇよ! 依頼なんてどうでもいい!」


 段々と興奮し始めてきた彼らは、当初の予定をそっちのけで、その謎の穴を調査することにしたのだった。


 ……ただの何もない穴だと判明し、完全な無駄骨に終わってしまうのは、それから数時間後のことである。

 もちろんどうやってこの穴が掘られたのかなど、彼らが知る由もない。



     ◇ ◇ ◇



「にゃ!」

「ぴぴぴ!」

「えっ? もう卵が孵りそうだって?」


 第二家庭菜園に戻ってきた僕は、ミルクとピッピから孵化間近だと教えられ、大いに慌てた。

 急いで二匹の家へと駆け込んだ。


 リビングの真ん中に置かれた巨大な卵。

 中の赤ちゃんが暴れているのか、グラグラと揺れ動いていて、縦に小さな亀裂が入っている。


「本当だ! 生まれそう!」

「にゃにゃ!」

「ぴぴぴぴ!」


 ミルクとピッピは興奮して卵の周りをぐるぐると回り始めた。


 ピシッ……ピシピシピシッ……。


 さらに亀裂が大きくなり、やがて殻を突き破って前脚が飛び出す。


「あと少しだぞ! 頑張れ!」

「にゃにゃにゃ!」

「ぴぴぴぴぴ!」


 ミルクとピッピの応援にも熱が入る。


 そしてついに十分な大きさまで広がった穴から、赤ちゃんが這い出してきた。


 と言っても、すでに大きさは大人の人間ほど。

 蜥蜴を思わせる流線型のフォルムで、まだ柔らかそうな鱗は淡いピンク色だ。


「蜥蜴の魔物……? いや……も、もしかして、ドラゴン!?」


 僕は思わず後退った。

 生まれたてですでにこの大きさだし、もしドラゴンの子供なら、襲われると僕なんて一溜りもない。


「くるる……」


 慌てる僕を余所に、魔物の赤ちゃんは何かを探すように首を頻りに振って、小さく喉を鳴らしている。

 まだ目が見えていないみたいだけれど、もしかして親を探しているのかもしれない。


 その様子を見ていると、なんだか怖がっているのが申し訳なくなった。


「えっと……いい子だから、噛んだりしないでね?」


 恐る恐る近づいていくと、こちらに気づいたのか、赤ちゃんは「くるる」と鳴きながら顔を向けてくる。


「よ、よしよし」

「くるる~」


 頭を撫でてやると、嬉しそうに喉を鳴らした。

 ……うん、どうやらちゃんと懐いてくれそうだ。


 でも、ドラゴンなんて育てられるのかな……?



    ◇ ◇ ◇



『……』


 天を切り裂くように聳え立つ、世界最大級の山脈――〝レイオナラス大山脈〟。

 当代随一の冒険者パーティですら、立ち入りを躊躇する魔境の中の魔境。


 その最も高い頂に鎮座していた一体のドラゴンが、ゆっくりと顔を上げた。

 まるで太陽の光を一身に浴びているかのような、輝く黄金色の鱗に覆われたその巨体は、山脈の一部と言われてもおかしくないほどである。


 もちろん、ただのドラゴンではない。

 長き年月を生き続け、もはや神話級の存在と化した古竜である。


『この感覚……まさか』


 世界のどんな異変にも動じないはずの古竜が、鋭く虚空を睨みつけながら顔を歪めた。


『奴が、復活したのか……?』


 古き竜としての直感が告げていた。

 かつて激しい死闘の末に、完全に息の根を止めたはずの最強の同族が、再びこの世に舞い戻ってきたことを。


『本当に、貴様なのか……? 世界を滅ぼそうとした破滅の竜……闇黒竜バハムートよ……』

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