第137話 解体班よろしくな

「というわけで提案なのですがー、王都のオークションに出品してみる、というのはいかがですかー?」

「オークションですか?」

「はいですー。これだけ希少なものであれば、きっといい値段で売れますよー」

「でも僕、王都のオークションなんて行ったことないですし……」


 王都にはもうすぐで辿り着くところだけど。


「心配は要らないですー。代わりにわたくしが手配して、出品させていただきますのでー。そこで得られた儲け一部をいただければー」

「なるほど……でも、そこまでどうやって持って行くんですか?」

「……そ、それはどうにかなりますー」


 どうにかなるらしい。

 すでに向こうに家庭菜園があるので、一応、僕なら一瞬で運ぶことはできるけど……。


「じゃあ、お願いします」

「分かりましたー。それではまた解体しますねー」

「はい。えっと……」

「解体中は見ないでいただけると嬉しいですー」

「分かりました。しばらくしたら来ますね」



    ◇ ◇ ◇



「邪竜ファフニール……アトラスにも驚いたけど、これはそれ以上やわ……どうやって倒したんやろ?」


 リルカリリアはその巨大な死体を見上げながら呆れた顔をする。


「ともかく、向こうに持ってこ」


 魔法袋の中に吸い込ませると、彼女はそこから姿を消した。


 一瞬で光景が切り替わり、気づけば菜園から室内へ。

 沢山の机が置かれ、大勢の人たちが働くオフィスである。


「あっ、会頭!」

「「「お帰りなさーい!」」」

「ただいまやでー」


 それぞれ何やら作業をしていたが、リルカリリアを見るなり手を止めて立ち上がると、一斉に出迎えてくれた。

 しかし座っているときと大して高さが変わらない。

 全員が例外なくリルカリリアと同じポピット族なのだ。


 そこは誰も知らない秘密の場所に設けられた、リルカリリアが運営する商会の本部だった。

 リルカリリアはその会頭なのである。


 ちなみにアーセルの街からの距離は、ちょっとした国を横断できてしまうほど。

 それを一瞬にして移動することができたのは、彼女の持つギフトの力だった。


【どこでも商人】


 ……名前は少々アホっぽいが、商売人にとってこれ以上ない優れたギフトだ。

 過去に一度でも商いを行った場所であれば、瞬時に移動できるという破格の能力で、これが彼女の神出鬼没な商売の根幹となっていた。


 これを利用し、リルカリリアは世界各地で商売を行っているのだ。

 ジオから買い取った食材や素材も、実はアーセルの街に留まらず、幅広い場所で販売されている。


「今日はまた大物を手に入れてきたでーっ! 解体班よろしくなーっ!」

「「「了解!」」」


 本部内に設けられた解体場で、魔物などの解体も可能だ。

 解体作業に慣れたポピットの従業員たちが、どんな大物だろうと任せろと意気込む。


「「「って、なんやこれはああああああああっ!?」」」


 そんな彼らが仰天の叫び声を上げた。

 リルカリリアが魔法袋から取り出したそれが、あのアトラスに勝るとも劣らない巨大さだったからだ。


 しかもドラゴンである。

 硬質な鱗を有するゆえに武具などの素材として高値で売買されるが、その分、解体には一苦労する魔物だ。


「灰色の鱗に、禍々しさのあるけったいなフォルム……こんなドラゴン、おりましたっけ?」

「ファフニールの死体や」

「「「ファフニール!?」」」


 リルカリリアの言葉に目を剥く解体班のポピットたち。

 同時に大きく後退ったのは、ファフニールが巻き散らす恐ろしい瘴気について、少なからず知識を持っていたからだ。


「心配は要らんでー、もう瘴気は綺麗に浄化されとるから」

「ファフニールの瘴気って、浄化できるもんでっか……?」

「まぁ普通はできへんけどなー。でも見ての通り、こいつは大丈夫や」

「ていうか、会頭そんなもん、どっから手に入れてはったんや……?」

「それは秘密やー。今度オークションに出品しよ思とるからな、できるだけ奇麗に解体してやー」

「オークションでっか。こんなもん出てきたら、金持ち連中もびっくりしよるやろなぁー」


 解体班のポピットたちが解体作業に取り掛かる。

 その一方で、リルカリリアは鑑定班に素材鑑定をお願いしに行った。


「「「って、なんやこれはああああああああっ!?」」」


 ファフニールの死体を見た瞬間、鑑定班のポピットたちも仰天の叫びを上げたのは言うまでもない。



    ◇ ◇ ◇



「あ、解体、終わりましたか?」

「もちろんですー」


 しばらく経ってから第二家庭菜園に行くと、リルカさんが待っていた。


「これが魔石ですねー」

「うわっ、めちゃくちゃ大きいっ!」


 リルカさんから渡された魔石は、もはや岩と呼んでも過言ではない大きさだった。

 後で菜園のレベル上げに使おう。


「お支払いについては、オークション後ということでお願いしますー」

「はい、分かりました」

「一応、鑑定士に視てもらったところによりますとですねー、やはりファフニールの鱗には普通のドラゴンにはない特性がありましたー」

「そうなんですか」

「はいですー。瘴気耐性というものでしてー、実用性についてはまだ何とも言えないですけどー、鑑定士が存在を知らなかったくらい希少なものですのでー、大きな付加価値にはなると思いますよー」





 それからアーセルの街に戻り、リルカさんを見送った僕は、再び第二家庭菜園へ。


「さて、この魔石でどれくらいレベルが上がるかな?」


〈魔石を使用しますか?〉


 はい。


〈魔石を使用しました〉


―――――――――――

 ジオの家庭菜園

  レベル61 28/305

  菜園面積:10501150/∞

  スキル:塀生成 防壁生成 城壁生成 結界生成 ガーディアン生成 メガガーディアン生成 ギガガーディアン生成 菜園隠蔽 菜園間転移 菜園移動 遠隔栽培 自動栽培 収穫物保存 三次元移動 小屋生成 家屋生成 地中潜行

―――――――――――


〈レベルが上がりました〉

〈スキル:地中潜行を習得しました〉

〈新たな作物の栽培が可能になりました〉

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