第141話 怒られることは褒められることだ

 家庭菜園の中に入り、菜園移動を使ってダンジョン内を進んでいく。


「「「わおわおーんっ!」」」


 ドドドンッ!


「「「――ぎゃう!?」」」


 時々襲い掛かってくる魔物は、菜園の周囲に展開した結界に激突。

 そしてセナが放つ飛刃であっさりと倒してしまう。


「……大きな穴が開いているわね。普通は迂回しないとダメだろうけど……」

「三次元移動で飛べば大丈夫だと思う」


 地面に開いた巨大な穴も何事もなく突破できる。

 この階層に多いトラップなのか、踏むと出現する落とし穴と何度も遭遇したけれど、これも軽々と通過していった。


「分かってはいたけど……」

「便利すぎですね……」

「うん。とても助かる」


 想像していたよりずっと探索が容易で、僕もちょっと拍子抜けだ。


「ふわぁ……やっぱりお兄ちゃんと一緒だと楽だね~」


 危機感を失ってしまったのか、セナに至っては柔らかい土の上に寝っ転がり、たまに魔物が現れてもそのままの体勢で剣を振って倒す、といった横着ぶりである。

 せめて立てよ。


 問題があるとしたら、洞窟型のダンジョン特有の迷路構造だ。

 非常に道が複雑になっていて、しかも広大なため、数か月に渡って彷徨い続けたという冒険者パーティがいるほどである。


 事前に地図を購入していなかったら、僕らも迷い続ける羽目になっていたかもしれない。

 ……まぁ、脱出するだけなら菜園移動を使えば簡単なんだけど。


「ええと……次は……」


 その地図を何度も確認しながら正しいルートを進んでいく。

 お陰で二時間ほどでかなりゴールが近づいてきた。


「この先は右か……。でも、左に少し行くと、この階層のボスがいるみたい」


 このダンジョンの各階層には、通常の魔物よりも遥かに強い魔物が潜んでいる。

 それを階層ボスなどと呼ぶらしい。


 次の階層を解放するためには、誰かが必ず一度はこの階層ボスを倒さなければならないそうだ。

 ただこの階層はすでに解放済みなので、ボスと戦わなくても、誰でも次の階層に行くことが可能だった。


「せっかくだし倒しておく?」

「そうね。聞いた話によると、そこまで強いボスじゃないらしいし」


 僕たちは左に行くことにした。

 ちなみに階層ボスは倒しても何度も復活するという。


「運が悪ければいない可能性もありますよ」

「直前に誰かが倒しちゃった場合とかね」


 どうやらボスが復活するまでに一定の時間が必要らしく、場合によってはしばらく待たなければいけないらしい。


「いずれにしてもそろそろ起こした方がいいわ」

「すやすや……」

「おい、そろそろ目を覚ませ、このぐうたら娘」

「ふぎゃっ!?」


 横になっていたら眠くなってしまったのか、ついには寝てしまった妹を叩き起こす。


「ちょっ、お兄ちゃん酷い!」

「お前が寝てるからだ。たぶん前代未聞だぞ、ダンジョン攻略中に居眠りするやつとか」


 菜園から放り出して、そのまま放置して行ってしまおうかと思ったくらいだ。


「えへへ~」

「褒めてない!」

「師匠が言ってたよ! 怒られることは褒められることだって!」

「あれの教えを真に受けるなって、いつも言ってるだろ!」


 そんな不毛なやり取りをしながら家庭菜園を進めていると、やがて広い空間に出た。


「っ! いたわ! この階層のボス、コボルトロードよ!」


 空間の奥にその姿があった。


 今まで遭遇してきたコボルトの身長は、せいぜい百六十センチぐらいだったけれど、そのコボルトの王は五メートル近い巨体だった。

 取り巻きのコボルトを五体ほど引き連れ、手には物々しい戦斧を持っている。


「おおおおおおんっ!」

「「「わおおおおんっ!」」」


 コボルトロードが咆えると、それに呼応して取り巻きのコボルトたちが一斉に襲い掛かってきた。


「ほい」

「「「ぎゃっ!?」」」


 だけどセナの剣で瞬殺。

 上半身と下半身が泣き別れ、地面にひっくり返っていく。


「おおおおおおおおおおんっ!」


 手下をやられて憤ったのか、コボルトロードの体表の色が赤く染まっていった。

 戦斧を振り回しながら猛烈な速度で突っ込んでくる。


「ライトニング」

「ぎゃうあんっ!?」


 だけどそこへ、サラッサさんが魔力を十分に練り上げての雷撃を放つ。

 頭に直撃を喰らったコボルトロードは、いきなりの大ダメージに白目を剥いてよろめく。


 そこへすかさずセナが結界から飛び出し、朦朧としているコボルトロードの太い右足に強烈な斬撃を叩き込んだ。


「~~~~~~っ!?」


 右足を斬り飛ばされ、地面にひっくり返るコボルトの王。

 今の痛みで目を覚ましたようだけれど、もはや勝負は決していた。


「終わり~」


 セナが首に剣を突き立て、コボルトロードにトドメを刺す。


「思ったより弱かったー」


 確かに、ボスって聞いていたから、てっきりもっと強い魔物かと思ってた。

 まだ遭遇して一分も経ってないんだけど……。


「レッドドラゴンとかファフニールとか、最近とんでもない魔物と戦ってきたものね……」

「ですね……。それと比べれば、今のボスはただの肩慣らしですね」

「成長した」


 そんなわけで無事に階層ボスも撃破し、僕たちは次の階層へと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る