第126話 魔物の卵(大)

 リルカリリアは戦慄していた。

 ジオの第二家庭菜園に、なぜかとんでもない顔ぶればかり集結していたからだ。


(前回こっちに来たときはおらへんかったよな? ということは、この短期間で……? どないなっとんねん……)


 そんなリルカリリアに、さらにジオから無常な言葉が告げられる。


「あと、変な魔法使いが一人います」

(まだおるんか!?)

「その魔法使いって、もしかしてあの塔にいるんですか?」


 そこにあったのは一本の塔だった。

 魔法使いが作り出したと思われるその塔へ、一行は立ち入る。


「この像……もしかして、ミランダさん?」

(ミランダ? どっかで聞いたことあるような……)


 それから使い魔だという小さな悪魔に案内されて、リルカリリアたちはその塔を登っていった。

 その最上階にいたのは、黄昏色の髪の美女だ。


「あ~~~っ! クソめんどくせぇっ! 何度頼まれたところで、オレはもうそんな面倒なことはしねぇっつーの! とっとと帰りやがれ!」


 さらに数人の男女が、そう吐き捨てる美女に頭を下げて懇願している。


「ミランダ様! そうおっしゃらずに! 師匠が到達された魔法の深淵は、魔法界の未来を切り開くものです! どうか、わたくしにその一端をご指導くだされ!」

「この私こそ、ミランダ様の魔法を受け継ぐに相応しい存在と自負しております! ぜひともご教示を!」

「ミランダ様ぁぁぁっ! お願いしますっっっ! 何でもしますからっっっ!」


 その面々を見て、リルカリリアはぎょっとした。

 というのも、彼らはリルカリリアでも知っているほど有名な魔法使いたちだったからだ。


(〝炎獄の美姫〟アンスリアに、〝絶氷の暴君〟エルモーナ、それに〝闇蜘蛛〟ロジッヌ……他にも……)


 いずれも超一流の魔法使いにしか与えられない二つ名持ちである。

 そんな彼らが弟子入りを懇願する人物となると、リルカリリアに思い当たるのはただ一人だけだ。


「この魔法使いたちは……となると、ミランダはまさか、あの伝説の……」

「リルカさん? どうしたんですか?」

「……なんか、とんでもないことになっとるんやけど……」

「? リルカさん?」


 もはやジオの言葉などまともに聞こえてこない。


(〝黄昏の魔女〟ミランダ……人魔大戦において、魔族軍に圧倒されとった人類軍……しかしその劣勢を、たった一人で覆した最強の魔法使い……なんでこんなとこに……)


 それからアーセルに戻ってきた後も、彼女はなかなか放心状態から回復しなかった。


「……随分と賑やかになってたわね? できるだけギフトのことは隠しておくんじゃなかったの?」

「もちろんそのつもりだったんだけど……。あの場所なら誰も来ないはずだったのに、来ちゃったんだから仕方ないと思う」


 それどころか、そんな話が耳に入ってくる。


「勝手に集まってきた、やと……あの顔ぶれが……一体どんな偶然やねん……」


 リルカリリアは、そこで考えるのをやめた。


(ま、全部うちの気のせいかもしれへんな。うん、そうや、そうに違いない。むしろうちは何も知らん。何も見とらん)


 そして見なかったことしたのだった。



     ◇ ◇ ◇




「それはそうと、二匹ともそろそろここで飼うのは厳しいんじゃない?」


 アニィに指摘され、確かにそうだなぁ、と僕はミルクとピッピを見ながら頷く。


「にゃ?」

「ぴ?」


 可愛らしく首を傾げているけれど、今や二匹とも僕の背丈を大きく超えてしまっており、もうどこからどう見ても立派な魔物だ。


「第二家庭菜園に連れて行こうかな。でも、みんなびっくりしちゃうよね……。あ、でも、結界を二重にできるんだっけ? それなら範囲を区切っておけばいいか」


 菜園の四隅は使われているので、中央をミルクとピッピ用の領域にすればよさそうだ。

 第二家庭菜園は広大なので、それでも十分、二匹が走り回れるだけの広さがあるはずだ。


 そんなわけで、シーファさんやアニィが帰っていった後、僕は二匹と一緒に第二家庭菜園へと飛んだ。


「まずは結界を張ってと……よし。それから、ここにも家屋を建てておこうかな」


 家屋生成スキルを使い、第二家庭菜園のど真ん中に一軒の家屋を出現させる。


「今日からこれがお前たちの家だぞ。好きに使ってもらっていいからな」

「にゃ!」

「ぴぴっ!」


 あっちの家と違って家具が置かれていないため、二匹の大きさでもそれほど狭くは感じないだろう。


「そうだ。ついでにここでアレも作ってみよう」

「にゃ?」

「ぴぴぴ?」


 不思議そうな顔をする二匹の前で、つい先日、新たに栽培可能な作物リストに加わったそれの栽培を始めることにする。


 魔物の卵 大


 そう、新たな魔物の卵だ。

 ミルクが生まれた魔物の卵(小)や、ピッピが生まれた魔物の卵(中)を凌駕する、魔物の卵(大)。


 次はどんな子が生まれてくるんだろうと期待しつつ、僕は〈魔物の卵(大)を栽培しますか?〉の声に頷いた。


「にゃ!?」

「ぴぃっ!?」

「うわっ、でかっ!」


 出現したその卵に、僕たちはそろって驚いた。


 というのも、直径が僕の背丈ほどもあったからだ。

 普通に中に入れそう……。


「もしかして、すごく大きな魔物が生まれてくるんじゃ……?」

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