第124話 もはや神と称すべき存在ですね
「ええと……ミランダさん?」
お取込み中に悪いと思いつつ、僕は声をかけてみた。
するとすぐにこちらに気づいたミランダさんは、なぜか「良いところに来たな!」と言って、
「ジオ! お前もこいつらに言ってやってくれ! このオレは酒を飲みながらゴロゴロして無為な時間を過ごすことにしか興味ねぇ、ただのダメ人間だってよ!」
「それ、自分で言います?」
何も間違ってないけど。
「師匠、何があったのー? もしかして新しい弟子?」
「こんな奴ら、弟子でもなんでもねぇよ」
セナに訊かれて、ミランダさんは吐き捨てるように言う。
すると先ほどの魔法使いたちが目を剥いた。
「なっ、まさかすでに、弟子が……っ!?」
「我々を差し置いて、こんな小娘が、ミランダ様の弟子になっているなんて……っ!」
「うるせぇ、こいつはお前らと違って、オレの求める基準をすべて満たした。だから弟子として認めてやったんだよ」
ミランダさんの言葉に、魔法使いたちは言葉を失い、尊敬の眼差しでセナを見やった。
「ミランダ様に認められるなんて……」
「羨ましい……」
たぶん、弟子は弟子でもあなたたちが思ってるのとは全然違いますよ?
それにしても、ミランダ様っていう呼ばれ方には違和感しかない。
実は魔法界では有名で、しかも慕われている存在なのだろうか?
確かに魔法の腕だけは凄いと思っていたけど……。
「むしろ魔法界から追放されちゃって、だから毎日寂しく一人で飲んだくれていたのかと思ってた……」
「……お前って、オレの想定を超えちまうレベルで、オレのことを馬鹿にしてるよな?」
あれ? 普通に馬鹿ですよね?
「は、初めまして。僕はこの菜園の主で、ジオと言います」
僕は恐る恐る名乗った。
「ということは、あの結界を張ったのはあなたですか?」
「一応、そういうことになりますが……」
ギフトにお願いしただけだけど。
「あれはなかなか素晴らしい結界でした。てっきりミランダ様の魔法かと思ったほどです」
「抜けるのに非常に苦労したよ。五人がかりで、数時間もかかってしまった」
ヴァニアさんと言い、結界を突破してきちゃう人、結構いるよね……?
あの結界、二重、三重にできたりしないのかな?
〈結界を二重にしますか?〉
できちゃうんだ……。
「あの、それで皆さんは一体……?」
「我々は見ての通りミランダ様を慕う者たちです」
「ミランダ様に師事し、魔法を学ぼうとずっとその行方を捜していたのです」
やっぱり僕が思っていた以上に、ミランダさんは凄い魔法使いらしい。
「もはや神と称すべき存在ですね」
「か、神、ですか……」
……彼らの前でミランダさんを軽んじるような言動はやめておこう。怖いし。
「この塔は……?」
「これは我々が力を合わせ、腕によりをかけて作りました。あのような小屋、ミランダ様には相応しくありませんので」
「オレはあれで十分だったんだけどよー」
たった数日でこんな塔を作ってしまうとか、この人たちも実は一角の魔法使いたちなのかもしれない。
「なんにせよ、オレは何も教える気はねぇからな」
そう言い切って、使い魔から受け取ったお酒を飲み始めるミランダさん。
「と、おっしゃってますけど……」
「もちろん諦める気はありません。何度断れようとも説得を続けるつもりです」
「というわけで、この塔で生活する予定ですので、よろしくお願いします」
「あ、はい……好きにしてください」
ミランダさんのことだし、どんなに頑張っても折れない気がするけどね……。
「はっ、万一ミランダ様が難しければ、彼女に教えを乞うということも……」
「た、確かに……だが、それはあくまで最終手段……」
「ほえ?」
いや、うちの妹は魔法の弟子じゃなくてぐうたらの弟子なんで、何の役にも立ちませんよ?
「この魔法使いたちは……となると、ミランダはまさか、あの伝説の……」
「リルカさん? どうしたんですか?」
「……なんか、とんでもないことになっとるんやけど……」
「? リルカさん?」
さっきからずっとリルカさんの様子がおかしいんだけど。
気のせいかな?
それから僕たちは第一家庭菜園へと戻ってきた。
「……随分と賑やかになってたわね? できるだけギフトのことは隠しておくんじゃなかったの?」
「もちろんそのつもりだったんだけど……。あの場所なら誰も来ないはずだったのに、来ちゃったんだから仕方ないと思う」
アニィに咎められて、僕はそんなふうに言い訳する。
領主様に言われて魔境の傍に移動させたら、かえって色んな人たちが集まって来てしまったのだ。
「勝手に集まってきた、やと……あの顔ぶれが……一体どんな偶然やねん……」
やっぱりリルカさんの様子が変だ。
「リルカさん? リルカさん!」
「はっ? ど、どうされましたかー?」
「いえ、さっきからずっとブツブツ言われてて……」
「ちょ、ちょっと考え事してただけですー。大丈夫ですよー」
「そうですか? でも、本当に大丈夫ですか? 顔色が悪いような気もしますけど……」
「し、心配しないでくださいー。で、では、わたくしはこれで、失礼させていただきますー」
そう言って、リルカさんは逃げるように帰っていったのだった。
……本当に大丈夫かな?
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