第123話 久しぶりに師匠に会いたい

「とまぁ、こんな感じかな」


 第二家庭菜園の住人たちを一通り紹介した。


 え? ミランダさん?

 あそこは彼女だけだし、すでにシーファさんやアニィとは面識があるからいいかなって。


 一応、サラッサさんとリルカさんには説明しておく。


「あと、変な魔法使いが一人います」

「師匠だよ、師匠! 久しぶりに師匠に会いたい!」

「会わなくていいよ。また悪影響を受けるんだから」

「え~」


 不満そうに口を尖らせるセナ。

 あのダメ人間、どう考えても教育に悪いからね。


「その魔法使いって、もしかしてあの塔にいるんですか?」

「え?」


 サラッサさんに言われて、ミランダさんがいる方を見やる。

 するとそこにあったのは、少なくとも高さ五十メートルはあるだろう塔だった。


「何あれ……?」


 もちろんあんな塔は知らない。

 ミランダさんはずっとみすぼらしい小屋で、一人寂しく生活しているはずだ。


「あれは恐らく魔法使いの塔です。……力のある魔法使いが、その力を誇示するために作ったり、魔法の研究室として作ったりするものです」

「何でそんなのが……」


 確かにミランダさんは魔法使いだけど、わざわざそんなものと作ったりしないはずだ。

 重度の物臭さだし、そもそもあの小屋で満足していた。


「一応、行ってみましょうか」


 そうしてその謎の塔のところへ転移した。

 うん、確かに間違いなくミランダさんがいた場所だ。


 塔の隣にはその小屋があった。

 念のため覗いてみたけれど、中には誰もいない。


「酒臭っ……」


 部屋に染みついた酒の匂いに顔を顰め、扉を閉める。


「じゃあ、こっちの塔に?」

「入ってみよう!」

「気を付けろよ」


 セナが楽しそうに塔へと近づいていった。


「わ、私は、怖いので帰らせていただきます……」

「サラッサさん?」

「何となく、嫌な予感がしますので……」

「嫌な予感?」


 同じ魔法使いだからこそ感じるものなのだろうか?

 だとすると、中に入るのはやめた方がいいかもしれない。


 などと思っていると、すでにセナが塔の中に入ろうとしていた。

 いつの間にか重厚そうな扉が開かれている。


「ねー、早く入ろうよー」

「ちょっと待てって」


 セナのことだ。

 ダメと言っても言うことを聞かないだろう。


「すいません、じゃあ、サラッサさんだけ先に街に連れていきますね」

「……お願いします」


 僕はサラッサさんと一緒に第一家庭菜園に転移する。


「魔法使いの塔は、侵入者を排除するため、内部が危険なダンジョンになっていることもあるんです。だから十分、注意してください」

「わ、分かりました」


 それ、もうちょっと早く言ってほしかったな。

 そんなふうに思いながら、僕はみんなところに戻る。


「お兄ちゃん、遅いよー。じゃあ、行くよ!」


 そうしてセナを先頭に、僕たちは謎の塔へと足を踏み入れた。


 何かあったらすぐに菜園間転移で戻ろう。

 ここは菜園の中だし、たぶん使えるとは思う。


 塔の中に立ち入ると、まずは広々としたエントランスが広がっていた。

 壁や天井には見事な彫刻が施され、中央には美しい彫像が立っている。


「この像……もしかして、ミランダさん?」


 よく似ていた。

 ただし、普段のぐうたらした雰囲気とはまるで違う、きりっとした凛々しい顔で魔法の杖を構えている。


「師匠、かっこいい!」

「……本人が作ったのかな」


 自分で自分の彫像を作るなんて、とんでもない自己顕示欲の塊だよね。


「お久しぶりです、ジオ様」

「あ、ミランダさんの」

「はい。使い魔のデーモンです」


 そこへ現れたのは、ミランダさんの使い魔である小さな悪魔だ。

 ほとんど動こうとしない主人の代わりに、よくお酒を収穫させられたりしている。


 今もその途中だったのか、小さな身体に大量の酒瓶が入った袋をぶら下げていた。

 よくその状態で飛べるよね……。


「えっと……ミランダさんはいますか?」

「ご主人様は塔の頂上にいらっしゃいますよ。ですが、道中は複雑な造りになっています。一緒に行きましょうか?」

「あ、お願いします」


 このデーモン君(さん?)、あの人の使い魔とは思えないくらいしっかりしてるんだよなぁ。


 ともかく彼のお陰で、僕たちは迷わず最上階まで登ることができた。

 思っていた以上に迷路のような構造になっていて、しかも所々にトラップまで仕掛けられていたので、デーモン君がいなかったらきっとかなり苦戦していただろう。


 そしてその最上階に、ミランダさんの姿はあった。



「あ~~~っ! クソめんどくせぇっ! 何度頼まれたところで、オレはもうそんな面倒なことはしねぇっつーの! とっとと帰りやがれ!」



 何やら苛立っている様子。

 そんな彼女の前で頭を下げているのは、数人の見知らぬ男女だった。


「ミランダ様! そうおっしゃらずに! 師匠が到達された魔法の深淵は、魔法界の未来を切り開くものです! どうか、わたくしにその一端をご指導くだされ!」

「この私こそ、ミランダ様の魔法を受け継ぐに相応しい存在と自負しております! ぜひともご教示を!」

「ミランダ様ぁぁぁっ! お願いしますっっっ! 何でもしますからっっっ!」


 あのミランダさんが、まさか慕われている……っ!?

 信じがたい光景に、僕は戦慄を覚えた。


「ああもうっ、うるせぇし、しつけぇっ! オレは魔法の弟子は取らねぇって言ってんだろうがっ!」

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